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「NO MORE 映画泥棒」のCMとAtari 2600版『ドンキーコング』 [レトロゲーム]

“NO MORE映画泥棒”新CM公開。カメラ男が街中の逃走劇で華麗なアクションをくり広げる! (ファミ通.com)

 上に挙げた記事の通り、約6年ぶりとなる「NO MORE 映画泥棒」のCMの新作が公開されました。
 念のため説明しますと、「NO MORE 映画泥棒」とは劇場映画の盗撮や違法アップロードの防止を呼び掛ける啓発CMです。本編映像が始まる前に流れるため、日本の映画館へ足を運んだ経験がある人なら必ず目にしているでしょう。

 さて、レトロゲーム界隈(って何処?)では有名な話ですが、この「NO MORE 映画泥棒」のCMにはAtari 2600(VCS)のゲームの効果音が使用されていることで知られます。
 論より証拠。まずは2014年に公開された旧CMをご覧ください。





 このCMで、効果音が使用されているAtari 2600のゲームは2作品。
 具体的に述べると、0:31で違法DLを行っている際の効果音が『パックマン』。そして、0:24および0:33で映画泥棒が逮捕されている時の効果音が『ドンキーコング』となります。




〇『パックマン』 (CMに使用されている効果音は0:43付近)
 ナムコが1980年にリリースした同名アーケードゲームの移植。Atari 2600版は再現度が低いことに加えて、本体の販売台数を超える数のカートリッジを製造したことで悪名高い作品です。





〇『ドンキーコング』 (CMに使用されている効果音は0:45付近)
 任天堂が1981年にリリースした同名アーケードゲームの移植。元作品は全4ステージの構成でしたが、Atari 2600版は2ステージに減少しています。





 以上を踏まえて、この度公開された新CMを見てみましょう。
 劇場内を飛び出して、街中を逃走する映画泥棒。しかし悪あがきも空しく、最後はパトランプ頭の警官たちに捕らえられてしまう内容です。
 残念ながら『パックマン』は無くなってしまったようですが、0:23の辺りで引き続き『ドンキーコング』によく似た効果音が使用されていました。
 ただし2014年版に比べるとソックリ度は激減しています(独自の音源ソースを新録したのかもしれません)。個人的にはかなりガッカリしています。


 ところで単純に疑問なのですが、この2600版『ドンキーコング』の効果音に著作権が認められる場合、2020年現在において誰が権利者となるのでしょう?
 言うまでもなく、『ドンキーコング』そのものの知的財産権は任天堂が保有しています。そして2600版『ドンキーコング』は、「家庭用ゲーム機への移植・販売」を認める許諾契約を任天堂と結んだ上で、アメリカの玩具会社であるコレコ社より1982年に発売されました。

 実はこの1982年の時点で、2600版『ドンキーコング』の効果音の権利が誰に帰属するかは容易に推測が可能です。同作品の説明書には、「プログラムおよびオーディオビジュアル」の権利はコレコが保有すると明記されているのです。

dk2600_licence.jpg
Donkey Kong - Standard label - Atari 2600

 かつての家庭用ゲーム機は、アーケードに比べて圧倒的に性能面で劣っていました。アーケード版のソースコードの流用などできず、プログラムは一から組み上げる必要がありました。そしてもちろん、「見分けがつかないほど再現度の高い移植」など望むべくもありません。2600版『ドンキーコング』に関してもグラフィックは貧相になり、コングは単色の置物と化しています。そして効果音はまるでアーケード版と似ていません。
 あくまで私見になりますが、このような当時の状況を踏まえて、コレコと任天堂との間の許諾契約には移植版の「プログラムおよびオーディオビジュアル」の権利がコレコへ帰属することを認める条件が盛り込まれていた可能性が高いと考えられます。*注

 もっともそのコレコ社ですが、1983年に発売したホームコンピュータ「ADAM」の失敗、そしてキャベツ畑人形への過剰投資が裏目に出て多額の負債を抱え、1988年に経営破たんしています。
 その後、コレコ社の資産は大手玩具会社のハスブロが取得。長らく音沙汰はありませんでしたが、2005年にリバー・ウエスト・ブランド社がコレコのブランド権を取得し、携帯ゲーム機の「コレコ・ソニック」を発売しました。(ただし、内部的にはセガマスターシステムの互換機であり、「PlayPal Portable Player」の別名で再販されています)
 
 さらに時は流れて2015年、コレコの知的財産権を継承する会社としてコレコホールディングスが設立。同社の許諾の下、At Games社よりプラグアンドプレイ・ゲーム機の「コレコビジョン・フラッシュバック」を発売しています。

(公式WEBサイト)
Coleco Vision

 とはいえ、2600版『ドンキーコング』における「プログラムおよびオーディオビジュアル」の権利もコレコホールディングスに引き継がれたのか?そして日本で公開されているCMに効果音が使用されていることを同社は認知しているのか?――外部の第三者である我々にはわかりません。

 いずれにしても、映画の著作権保護を啓発するCMにおいて、Atari 2600のゲームに似た謎の効果音が使用されているのはちょっと愉快な話です。もしも劇場で、映画本編が始まっていないのにニヤニヤしている人が居たら、それはAtari 2600のファンかも?(笑)

(2020/07/18 追記)
*注 デヴィッド・シェフ著『ゲーム・オーバー』(1993年)には、コレコとの契約に関して次のような記述が存在する。
 <ドンキーコング>の法的な保護策がととのうと、リンカーン(引用者注:NOAの顧問弁護士)は1981年におこなわれたコレコとの交渉で荒川(引用者注:NOA社長)を補佐した。彼は法定書式集を参考にして契約書を用意した。それに目を通した荒川は、任天堂がゲームにかかわる如何なる権利をも所有する旨、保証しなければならないとあるが、これはどうしてかと訊いた。リンカーンの説明によると、どうしたもこうしたもない、そうしなければならないと言う。(中略)
 結局、リンカーンと荒川は所有権の保証は一切しないということで合意し、契約書にコレコが全てのリスクを負うとの言葉を入れた。

 これが事実であるのなら、コレコが移植版のプログラムのみならずオーディオビジュアルの権利まで有していたのは、仮に移植版において問題が発生しても任天堂は免責されることを企図した契約条件が存在し、それを反映したものであると考えることができる。

(2020/07/20)
 2020年現在、コレコビジョンの知的財産権を保有すると思われるコレコホールディングスの記述を追加、考察部分を修正。

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