ドラゴンスレイヤーへの道 [レトロゲーム]
〇Dragon Slayer (MSX) (MobyGames)
日本ファルコムが1984年にリリースした『ドラゴンスレイヤー』は、T&Eソフトの『ハイドライド』やコスモスコンピュータの『カレイジアスペルセウス』と並び、最初期に登場した国産アクションRPGとして知られます。
もっとも厳密に言うと、『ドラゴンスレイヤー』はターン制の疑似リアルタイムRPGです。しかしその先駆性と、ゲーム自体の面白さを兼ね揃えた傑作であるとの評価に異論を挟む人は少ないでしょう。僕自身、パソコンでは最後発のリリースとなったMSX-ROM版(1986年)を、時間を忘れるほど夢中になってプレイしたことを覚えています。
そんな『ドラゴンスレイヤー』が生み出される際に、作者の木屋善夫氏が参考にしたApple IIの海外産ゲームが存在するとの話をweb上で目にしました。
〇『Caverns of Freitag』 (MobyGames)
〇The Secret Origin of the Action RPG
『Caverns of Freitag』は1982年にMuse Softwareより発売*1。個人的にApple IIには疎いこともあり、このゲームは不覚にも今まで知りませんでした。
画面構成や「わらわらと押し寄せてくる敵」だけでも『ドラゴンスレイヤー』とよく似ています。さらに本作の主な内容は次の通りです。
○プレイヤーの目的は勇者を操作し、ドラゴンを倒して宿屋へと帰還すること。
○本作はターン制を採用している。ただし無操作でもターンは進行するため、実際はリアルタイム制のアクションゲームと同等のプレイ感となる。
○勇者は近接武器の剣と遠隔武器の弓矢(初期状態では12発を所有)を切り替えることができる。
○モンスターを倒すことで経験値を、またダンジョン内の宝箱から金を獲得できる。
○冒険の途中に宿屋へ戻ると体力が全回復する。また、十分な経験値を獲得していた場合はレベルアップし勇者の能力値が上昇する。
○さらに宿屋では、金を消費することで体力の最大値の増加や弓矢の補充を行うことができる。
○勇者は鳥に変化する魔法(時間制限あり)を使用できる。敵や地形を飛び越えることはできないが、移動速度が2倍となるため逃走手段として有効。
なるほど、これは確かに『ドラゴンスレイヤー』の原型です。特に、鳥への変化魔法を採用したアクションRPGの先例が存在したとは単純に驚きでした。
ところで『ドラゴンスレイヤー』にはもう一つ、元ネタと呼べる海外産ゲームが存在します。それは、『Caverns of Freitag』と同じくApple IIで発売された『Copts and Robbers』(1981年)です。
〇『Copt and Robbers』 (MobyGames)
発売元はSirius Software*2。ゲーム内容は次の通りです。
○プレイヤーの目的はピラミッドの中を探索し、壺と4つの宝石を保管庫に安置すること。
○ピラミッドの中には至るところに棺桶が置かれており、鍵を使用することで開封できる。
○棺桶の中からは、ミイラまたはアイテムが出現する。
○ミイラは敵であり、接触するとミスになる。
○プレイヤーの助けとなるアイテムとして、ミイラを追い払う指輪、ミイラを滅ぼすことができるキラーストーン、他のアイテムを引き寄せる磁石が存在する。
○お邪魔キャラとしてゴーストが登場する。プレイヤーの所持状態であるか否かにかかわらず、ゴーストは接触したアイテムを奪い去る。
『ドラゴンスレイヤー』をプレイしたことがある人なら、『Copts and Robbers』との間に共通点を見い出すことができるでしょう。
4つの宝物を集めることが最終目標、アイテムを奪うゴースト…。そしてなにより、下に挙げた説明書の挿絵の通り。キラーストーンのグラフィックは『ドラゴンスレイヤー』におけるパワーストーンそのものです。
『Caverns of Freitag』と『Copts and Robbers』を続けて見ていくと、『ドラゴンスレイヤー』はこれらの2作品を換骨奪胎したものであることがよくわかります。
念の為書いておきますが、僕は『ドラゴンスレイヤー』をパクリであると批判したいわけではありません。むしろ既存のゲームを基にしつつも、新たな要素を加えてユニークな作品へと昇華させた木屋氏の手腕に改めて敬意を覚えました。
ところで蛇足ながら『Copts and Robbers』について。
見る人が見れば一発でわかりますが、このゲーム自体も明らかに他作品から影響を受けています。それは、VCS(Atari 2600)で発売された『アドベンチャー』(1980年)です。*3
〇『Adventure』 (AtariAge)
映画『レディ・プレイヤー1』において取り上げられたことで我が国のゲームファンの間でもその名を知られるようになった『アドベンチャー』ですが、『Copts and Robbers』と――そして『ドラゴンスレイヤー』に引き継がれた共通点をいくつか挙げることができます。
○宝物を探し出し、所定の場所へと持ち帰ることがゲームの目的。
○ゲーム開始時の初期状態では、自キャラは武器をもっておらず攻撃能力がない。
○原則として、アイテムは一度に一つしか所持できない。
○アイテムを奪い去るお邪魔キャラが存在する。(『アドベンチャー』のコウモリ、『Copts and Robbers』と『ドラゴンスレイヤー』のゴースト)
僕自身は初めてプレイしたのが『ドラゴンスレイヤー』⇒『アドベンチャー』の順番であったこともあり、両者を結び付ける発想は元々ありませんでした。しかしその後、『Copts and Robbers』の存在を知ったことで、『ドラゴンスレイヤー』のルーツがVCSのゲームにまで遡ることができると気づいた時は軽く衝撃を受けました。
完全に自己満足な話ですが、この手の「点と点が結びついた」瞬間を体験できることは、ビデオゲーム史を調べている際の楽しみの一つです。
〇Caverns of Freitag
〇Copts and Robbers
ともあれ、『Caverns of Freitag』と『Copts and Robbers』はarchive.org上のエミュレータでプレイできます。『ドラゴンスレイヤー』以前の海外アクションRPG、是非ともお試しあれ。
(脚注)
*1 おそらく同社のゲームで最も有名なのは、1981年にリリースされた『キャッスル・ウォルフェンシュタイン』。
*2 後に『ファイナルファンタジー』のプログラムを担当するナーシャ・ジベリが設立したゲーム会社。
*3 『Copts and Robbers』は『アドベンチャー』と同様に、自キャラが四角形のドットで表現されている。また、他のアイテムを引き寄せる性質を持つ磁石も両作品に共通する。
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