SSブログ

アタリロゴ誕生伝説の謎 ―― 事実かそれとも作り話か? [レビュー]

atari50.jpg

 1972年に世界初のビデオゲーム会社として創業したアタリが今年で50周年を迎えました。これを受けて公式webサイトでは記念グッズの販売、および過去の作品を収めた現行プラットフォーム対応ソフト『Atari 50: The Anniversary Celebration』が発表されました。
 もっとも現在のアタリは、1984年に事業を分割売却して以降、度々の権利譲渡(と経営破綻)を経て存在しており、元の企業とは完全に別物です。
 それでも尚、半世紀前に生まれ出でた「ビデオゲーム産業のパイオニア」の名が現代に受け継がれている事実には、感慨深く思うところです。

atari_logo.jpg

 そんなアタリの象徴として有名なのが、1本の直線と2本の曲線で表現されたロゴマークです。俗に「フジ」ロゴとの愛称で呼ばれますが、日本の富士山と関係はありません。(詳しくは後述)
 このロゴマークを創造した人物の名はジョージ・オッパーマン。1972年当時、社外のデザイナーとしてアタリよりロゴマーク作成の依頼を受けました。


opperman.jpg
■George Opperman (1935-1985)


 果たしてアタリロゴは、どのような発想から生まれたのか?
 2016年に出版された『Art of ATARI』は、1983年の『Video Games』誌*1に掲載されたオッパーマンのインタビュー記事を引用しています。

 私は"A"を図案化しようと思い、当時のビッグネームであった『ポン』に目をつけた。『ポン』には中心線と、左右から中心に当たり続ける力(ボール)がある。それ(力)が中心を外側に曲げると思いついた。それが私のデザインしたものだ。


pong.png

 『ポン』はアタリが1972年にリリースした業務用ビデオゲーム。モノクロの画面上で、2人のプレイヤーが棒で表現された左右のラケットを操作し、ボールを打ち合う内容でした。つまり、アタリの頭文字であるAと『ポン』を融合した結果があのアタリロゴであるとオッパーマンは述べているのです。

 一方で、このオッパーマンの「公式ストーリー」には異論が投げかけられています。
 当時のアタリのプロダクトデザイナーであり、オッパーマンと共にロゴの作成に携わったジョージ・ファラコは次のように述べています。「バカバカしい、あれは単なるデザインだ」。ファラコによれば、彼とオッパーマンがロゴのアイデアを筆にまかせて紙に書いていたところ、その中に含まれていたオッパーマンのシンプルな落書きが目に留まり、それが採用されたとのことです。*2

 これはオッパーマン自身も認めていることですが、ロゴの作成にあたり150もの大量の案が生み出されました。(事実、『Art of ATARI』に掲載されている最終的なロゴ候補の中にはAや『ポン』とは似ても似つかない幾何学的なものが含まれています)
 ジョージ・ファラコとしては、その一つ一つに深い意味があるとは考えられないと主張しているようです。

 『Art of ATARI』は上記の2つの証言に加えて、アタリ創設者のノーラン・ブッシュネルの「オッパーマンは意図的に矛盾した説明を行っていたのではないか」との見解を紹介しています。
 ただし同書はロゴの起源について、どの証言がより信頼できるか否かの判断を示していません。その結果として、現在のweb上では『Art of ATARI』をソースとした両論併記的なアタリロゴの解説が散見されます。

 ……ここまでの文章を読んで、違和感を覚えた人が居るかもしれません。最後に引用したブッシュネルの「オッパーマンは意図的に矛盾した説明を行っていた」とはどういう意味なのか?Aと『ポン』をモチーフにしたのが「公式ストーリー」ではなかったのでしょうか?

 実はアタリロゴには、『Art of ATARI』が十分に説明していない重大な事実が存在します。そして、この疑問を解き明かすためには、1983年の『Video Games』誌の記事を詳しく見ていく必要があるのです。

 予め断っておきますが、ジョージ・オッパーマンは1985年に鬼籍に入っているため、もはや本人に真相を確認することはできません。そのことを踏まえた上で、件(くだん)の『Video Games』誌の記事において、オッパーマンがアタリロゴ誕生の逸話を証言するに至るまでの箇所を引用します。

 オッパーマンにはお気に入りのゲームデザインがあるかもしれないが、彼が最も言及されるデザインは、悪名高いアタリのロゴ*3だろう。このデザインに込められた意味に関して、これまでに相反する報告がなされてきた。様々な説(そのいくつか、または全てはオッパーマン自身が流したものである)が飛び交っているのだ。

●日本語の文字である。
●アタリの3つの事業部を3本線で表現している(ただしシンボル制作当時のアタリは1事業部だった)。
●日本のゲームの囲碁に由来する。
●富士山を表している。
●上記のいずれも違う

 以上の通り、アタリロゴの起源については1983年の時点で既に混乱が生じており、しかもオッパーマンがその情報の出所であったことが指摘されているのです。
 かくして、“追い詰められたオッパーマン“が語ったのが、Aと『ポン』を結び付けるストーリーでした。しかし、オッパーマンの証言がロゴの誕生から11年の間に変遷していたとの事実を知った後では、全く異なる印象を受けるのではないでしょうか?

 『Video Games』誌自身、改めて示されたオッパーマンの証言には懐疑的な態度を隠そうとせず、次のような言葉で記事を締めくくっています。

 極めて理にかなった話に聞こえる。そう信じたい。商売人なら、こんなお遊びみたいな作り話を想像することに時間を費やしたりしないだろう。しかし芸術家なら、そうするかもしれない。

 繰り返しになりますが、オッパーマンはすでに故人であるため、アタリロゴの真相を明らかにすることは不可能です。しかし、――僕自身、アタリファンであるため非常に残念ではありますが――オッパーマンが1983年に語った「公式ストーリー」を信用することは難しいと言わざるを得えません。

 ただし経緯がどうであろうと、アタリロゴのデザインが秀逸であり、ビデオゲームを象徴する偉大なアイコンの一つであることに変わりはありません。記事冒頭に述べた通り、アタリは今年で50周年を迎えました。もはや古典と呼べる70~90年代のアタリの作品たちをこの機会に是非ともプレイしてみては如何でしょうか?


(amazonリンク)
Art Of Atari (English Edition)

Art Of Atari (English Edition)

  • 出版社/メーカー: Dynamite Entertainment
  • 発売日: 2016/10/25
  • メディア: Kindle版


(脚注)
*1 出典は『Video Games』1983年6月号。オッパーマンの写真も同様。尚、当該誌は次のwebサイトで内容を確認できる。
DP Library - Magazines
*2 このジョージ・ファラコの証言は、『Atari Inc.: Business is Fun』(Marty Goldberg & Curt Vendel, 2012年)に収録されている。
*3 “悪名高いアタリロゴ”は、原文の“infamous Atari logo”をそのまま訳したもの。

nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:ゲーム

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。