ファミコンが存在しなかったかもしれないゲーム史 [レビュー]
私はレオナルド・グリーンバーグ会長とともに日本へ行き、任天堂の山内社長の元を訪れた。当時、我がコレコ社と任天堂はいくつかの製品を共同で開発していたからだ。
彼らはコレコビジョンに興味を持ち、原価に10パーセント上乗せした金額で買い取りたいと申し出た。しかし会長のレオナルドは、小売価格から10パーセント差し引いた金額での取引を望んでいた。
結局交渉はご破算となり、山内はこう言った。「任天堂は、自分たちでゲーム機を開発しますよ」、と。
レオナルドは大笑いして、彼らにそんなことは絶対できるわけがないと思ったそうだ。
――― コレコ社の技術・製造部長を務めたバート・ライナーの回想
任天堂が1983年7月15日に発売した家庭用ゲーム機のファミリーコンピュータについては、今さら説明するまでもないほど世界中の多くの人に親しまれています。
しかし「ファミコン以前」の81~82年頃に、任天堂がアメリカのコレコ社とゲーム機の売買に関する交渉を行っていたというライナー氏の証言は、知る人ぞ知る事実ではないでしょうか?
●コレコビジョン

○ColecoVision (from 英語版Wikipedia)
かつてアメリカに存在した玩具メーカー、コレコ社が1982年9月に発売した家庭用ゲーム機です。
CPUにザイログ社のZ80A、VDPにテキサスインスツルメンツ社のTMS9928Aを搭載。解像度256×192、16色表示、PSG3音。
スペックを見ての通り、レトロゲーマーにはお馴染みのMSXやセガSG/SCとほぼ同一の性能を有します。*1

○Donkey Kong ColecoVision Screenshots (from MobyGames)
"The Arcade Quality Video Game System"(ゲーセン級のゲームシステム)との謳い文句はダテではなく、同梱ソフトの『ドンキーコング』ではアーケード版の雰囲気を見事に再現。*2 アタリVCSやマテル社のインテリビジョンなど同時期に存在したゲーム機と比べると、遥かに優れた表現力を発揮しています。
「鉄骨やハシゴが少なくね?」、「なんでコングが右上に居るんだよ?」などとツッコみたくなるかもしれませんが、それは禁句(笑)
ちなみに、コレコ社はわずか2年でコレコビジョンの製造を打ち切ってしまうのですが、それはまた別のお話。*3
歴史に"IF"が無いことは承知していますが、コレコ社とのエピソードを知ってからの僕は「ファミコンが存在しなかった可能性」をつい考えてしまいます。
もしも任天堂がコレコビジョンを販売していれば、自社ハードを開発しようと思わなかった筈です。当然のことながら、83年にファミコンは誕生することはありません。そうなると、ほぼ同一スペックのセガSG-1000やMSXとは互角の戦いになることが予想されます。
史実上は任天堂の一人勝ちとなった80年代の家庭用ゲーム機の勢力図は大きく様変わりするでしょう。いや、事は我が国だけに留まらず、全世界のゲーム市場に大きな影響を与えることになります。
おお、なんだか話のスケールが収拾つかなくなってきたぞ!
以上、元MSXユーザーかつレトロ洋ゲーファンな僕の独善的妄想はさておき(笑)、実際問題として山内社長の判断はその後のゲーム産業を左右する重要な分岐点であったのは間違いありません。
世界中のゲームファンは、任天堂を笑い飛ばしたグリーンバーグ氏に感謝すべきなのかもしれませんね。
(関連記事)
○写真で見る家庭用ビデオゲーム40年史
○「ファミコン」商標は誰のものか?
参考文献
・HIGH SCORE! the illustrated history of electronic games 2nd edition
【 補足 】
*1 事実、初期のMSXにはコレコビジョンからのコンバージョンと思われるタイトルがいくつか存在する。例えばポニーより発売されたアクティビジョン作品、東芝EMIの『宇宙戦士・隼』、『人魚伝説』、『スゥーワーサム』、『クエスト・太古の恋物語』など。
逆にコナミの『けっきょく南極大冒険』や『わんぱくアスレチック』(北米版のタイトルは『Cabbage Patch Kids Adventures in the Park』)のように、MSXからコレコビジョンへと移植された例も見られる。
*2 ちなみにこのコレコビジョン版こそが、家庭用機で初めての『ドンキーコング』となる。つまりマリオの家庭用機デビューはコレコビジョンだったのだ。
*3 コレコ社の家庭用ゲーム機市場撤退の理由については、Classic 8-bit/16-bit Topicsさんの次の記事を参照のこと。つうか、いつのまにか再開されてる!
○JAKKS Paccific, キャベツ畑人形の製造権を取得
(08/7/16) レオナルド・グリーンバーグ氏の役職を「会長」に訂正。
彼らはコレコビジョンに興味を持ち、原価に10パーセント上乗せした金額で買い取りたいと申し出た。しかし会長のレオナルドは、小売価格から10パーセント差し引いた金額での取引を望んでいた。
結局交渉はご破算となり、山内はこう言った。「任天堂は、自分たちでゲーム機を開発しますよ」、と。
レオナルドは大笑いして、彼らにそんなことは絶対できるわけがないと思ったそうだ。
――― コレコ社の技術・製造部長を務めたバート・ライナーの回想
任天堂が1983年7月15日に発売した家庭用ゲーム機のファミリーコンピュータについては、今さら説明するまでもないほど世界中の多くの人に親しまれています。
しかし「ファミコン以前」の81~82年頃に、任天堂がアメリカのコレコ社とゲーム機の売買に関する交渉を行っていたというライナー氏の証言は、知る人ぞ知る事実ではないでしょうか?
●コレコビジョン

○ColecoVision (from 英語版Wikipedia)
かつてアメリカに存在した玩具メーカー、コレコ社が1982年9月に発売した家庭用ゲーム機です。
CPUにザイログ社のZ80A、VDPにテキサスインスツルメンツ社のTMS9928Aを搭載。解像度256×192、16色表示、PSG3音。
スペックを見ての通り、レトロゲーマーにはお馴染みのMSXやセガSG/SCとほぼ同一の性能を有します。*1

○Donkey Kong ColecoVision Screenshots (from MobyGames)
"The Arcade Quality Video Game System"(ゲーセン級のゲームシステム)との謳い文句はダテではなく、同梱ソフトの『ドンキーコング』ではアーケード版の雰囲気を見事に再現。*2 アタリVCSやマテル社のインテリビジョンなど同時期に存在したゲーム機と比べると、遥かに優れた表現力を発揮しています。
「鉄骨やハシゴが少なくね?」、「なんでコングが右上に居るんだよ?」などとツッコみたくなるかもしれませんが、それは禁句(笑)
ちなみに、コレコ社はわずか2年でコレコビジョンの製造を打ち切ってしまうのですが、それはまた別のお話。*3
歴史に"IF"が無いことは承知していますが、コレコ社とのエピソードを知ってからの僕は「ファミコンが存在しなかった可能性」をつい考えてしまいます。
もしも任天堂がコレコビジョンを販売していれば、自社ハードを開発しようと思わなかった筈です。当然のことながら、83年にファミコンは誕生することはありません。そうなると、ほぼ同一スペックのセガSG-1000やMSXとは互角の戦いになることが予想されます。
史実上は任天堂の一人勝ちとなった80年代の家庭用ゲーム機の勢力図は大きく様変わりするでしょう。いや、事は我が国だけに留まらず、全世界のゲーム市場に大きな影響を与えることになります。
おお、なんだか話のスケールが収拾つかなくなってきたぞ!
以上、元MSXユーザーかつレトロ洋ゲーファンな僕の独善的妄想はさておき(笑)、実際問題として山内社長の判断はその後のゲーム産業を左右する重要な分岐点であったのは間違いありません。
世界中のゲームファンは、任天堂を笑い飛ばしたグリーンバーグ氏に感謝すべきなのかもしれませんね。
(関連記事)
○写真で見る家庭用ビデオゲーム40年史
○「ファミコン」商標は誰のものか?
参考文献
・HIGH SCORE! the illustrated history of electronic games 2nd edition
【 補足 】
*1 事実、初期のMSXにはコレコビジョンからのコンバージョンと思われるタイトルがいくつか存在する。例えばポニーより発売されたアクティビジョン作品、東芝EMIの『宇宙戦士・隼』、『人魚伝説』、『スゥーワーサム』、『クエスト・太古の恋物語』など。
逆にコナミの『けっきょく南極大冒険』や『わんぱくアスレチック』(北米版のタイトルは『Cabbage Patch Kids Adventures in the Park』)のように、MSXからコレコビジョンへと移植された例も見られる。
*2 ちなみにこのコレコビジョン版こそが、家庭用機で初めての『ドンキーコング』となる。つまりマリオの家庭用機デビューはコレコビジョンだったのだ。
*3 コレコ社の家庭用ゲーム機市場撤退の理由については、Classic 8-bit/16-bit Topicsさんの次の記事を参照のこと。つうか、いつのまにか再開されてる!
○JAKKS Paccific, キャベツ畑人形の製造権を取得
(08/7/16) レオナルド・グリーンバーグ氏の役職を「会長」に訂正。
タグ:ゲーム
>「なんでコングが右上に居るんだよ?」
不安定になる!不安定になる!!
コングが右上にいるってだけで、すごい不安定になるーーーーッ!!
しかし、この「if」が進んだとしたらどうなっていたでしょうねぇ。
ウチが思うにセガが天下を取ったのではないかと思います。
なんだかんだと言ってMSXは高級品でしたからね。
コレコ社の開発中止がそのまま行われれば、セガ一社の天下になった…かなぁ?
by 柾木神威 (2008-07-15 23:22)
>コングが右上にいるってだけで、すごい不安定になるーーーーッ!!
いや、実は僕も同感。ファミコンの解像度(256×240)の偉大さが身に染みてわかりますね。
あと今回は詳しく書きませんでしたが、実はセガもコレコビジョンの日本での販売を検討していた事実があると聞きます。当時は各メーカーの思惑が色々と交錯していたようです。
個人的にはMSXが天下取る歴史を見てみたいなぁ(笑)
by loderun (2008-07-16 00:13)
こんにちは
MSXが天下を取るとこ オレも見てみたいです。(笑)
コレコと似たスペックという点では日本ではMSXよりも先に ソード/タカラ から M5というホビーパソコン が出てますね。1982年生まれのM5が成功していたらMSXもなかったかも・・・
by M_t (2008-07-16 22:39)
確かにソードM5も、スペック的にはMSXと同じですね。ただ、当時は10万円以下のホビーパソコンが続々と市場に投入されていた時期です。
松下、ソニー、東芝など主要家電メーカーが参入したMSXですら、85年にようやく総出荷台数100万台を達成した程度ですから。
やはり、83年当時にファミコン並みの価格破壊を実現していないと、MSXで天下を取るのはムリっぽいですね(笑)
by loderun (2008-07-16 23:38)
当時の自分を思い出すと、「ドンキー」や「マリオ」が家庭で遊べるの!? という部分でFCに食いついたところがあります。MSXはやはり見た目がパソコンなので、それだけで子供たちからは敷居が高く見られてしまったかなと。なので浸透はしなかったと思えます。
そう考えると、コレコ社と組まず、純日本製のゲーム一択の”ゲーム機”というのは成功だったのでしょうね。
こういうお話、面白いですね~。
当時はアタリ社のゲーム機もありましたが、コントローラの取っつきやすさなんかも日本人向けだったと思えます。
by カルディア (2008-07-17 02:08)
nice!ありがとうございました。
いや、「MSXが互角かも?」ってあたりは僕の妄想ですので、あまり本気にしないでください(笑)。実際にMSXがゲームパソコンの地位を確立するのは、84年末のカシオPV-7の登場がきっかけでしたからね。もしもファミコンが存在しなくても大ヒットは苦しかったと思います。
by loderun (2008-07-18 22:22)
はじめましてこんばんは、「通????」は受け付けないのですね
ちょっと記事の内容でお伺いしたいことがあります。
あれれ~?VDPは9918では?と思い必死に検索してみたら、確かに9928としてるページもありますね。でも該当ページはCBS COLECO対象みたいなので、これはこれで9929の間違いではという気がしないでもないのですが、ロットとして9928を使用しているCOLECOVISIONもあったのでしょうか?
by のふ (2008-09-27 01:04)
サイドバーにもあるように、「通りxがり」は禁止ワードとさせて頂いてます。
ご質問の件ですが、コレコビジョンのVDPはTMS9928Aです。これはTMS9918に色差信号出力を追加した派生バージョンになります。
おそらく9918と表記しているページは、「9918ファミリー」という広い意味で用いているのではないでしょうか?
尚、欧州版の「CBS ColecoVision」については、ご指摘の通り(PALに対応した)9929Aになりますね。
by loderun (2008-09-27 11:07)
早速のご返答ありがとうございます。
基板の画像も探し出すことができず、まったくネット上をROMっているだけでは正確な情報を判断できないものです。
ずっと9918なんだ、CPUも音源もSG1000と一緒なんだ、と思っていました。
>「9918ファミリー」という広い意味で
う~ん、確かにデータシートでは9900で一緒くたにされているんですけど、そんなページばかりなので、こちらの読み込みが足りないのかどうか、ちょっと誤解してしまいます。
9928>エンコーダ>RFモジュレータ とは面倒な仕様に思えますが、調達の都合か、他に理由があったのか気になるところです。
蛇足:Wikipediaに
TMS9929:TMS9918の映像出力をPALにしたもの
とありますが、これ間違いですね
by のふ (2008-09-28 00:44)
COLECOVISION開けてみました。確かにTMS9928Aでした。
アメ製品は何でもシールド対策が凄いなぁ、という感想。
by のふ (2008-11-24 23:47)
おお、わざわざ実機を手に入れられたのですね。
もしもblogやWEBサイトをお持ちでしたら、是非とも内部写真を公開されてはいかがでしょう?
by loderun (2008-11-26 20:16)
そういうことはよくやりますが
流石に確認のために実機を手に入れたというわけではないです。
円も高くなったし、そろそろかな?と
昔からの憬れのマシンでありました。
何もかも無駄にデカイのが困ったものです。
公開は・・・できたらいいですね。
by のふ (2008-12-02 00:48)