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任天堂の山内前社長は、「他社が三年間真似できないゲーム機を作れ」と言ったのか? [レビュー]

社長が訊く「スーパーマリオ25周年」 ファミコンとマリオ篇

またしてもblogで取り上げるのが遅くなってしまいましたが(いや本当に申し訳ありません)、任天堂公式WEBサイトの"社長が訊く「スーパーマリオ25周年」"で、上村雅之氏と今西紘史氏へのインタビューが公開されています。
ファミコンの歴史的成功を支えたお二人の登場ということで、非常に読み応えのある内容でした。

上村雅之氏はファミリーコンピュータのハードウェア開発を担当。"ファミコンの生みの親"として当blogでも過去に何度かご紹介しております。
「やる夫が任天堂社長になるようです」にツッコミ
「ファミコンは自信なかった」――ファミコンの生みの親・上村雅之氏が語った遊びの原点

そして今西紘史氏は、総務部長を経て94年より02年まで広報室長を務められました。平成生まれのゲームファンには馴染みが薄いかもしれませんが、80年代~90年代の任天堂を語る上でのキーパーソンと呼べる方です。
インタビューの中でも触れられているように、ファミコンブームの折にはクレーム処理のみならずライセンス制度の整備に尽力されたことで知られます。(当時の任天堂にはライセンシー管理を担当する専門の部署が存在せず、総務部の社員3人が対応したそうです)

このようなインタビューを任天堂自らが公開するようになったとは、本当に時代の変化を感じさせますね。いやあ、本当によい時代になったものです。


閑話休題。
今回の"社長が訊く"のインタビュー、個人的にどうしても見過ごせない発言が一つありました。

(原文)
上村 そもそものはじまりは、山内前社長から 僕の家に電話がかかってきたのがスタートなんです。これは事実なんですね。(中略)
そのときに山内さんが条件を出されて、これまでのようなソフト内蔵式のテレビゲームではなく、その当時、主流になりはじめたカセット方式を採用して、しかも「3年間は競争相手が出ないような機械をつくれ」と。

3年間は競争相手が出ないような機械をつくれ」ですか!?

いや、これには飛び上がらんばかりに驚きましたよ。
確かに、山内前社長が上村氏にファミコン開発を電話で指示したとの逸話は以前から知っておりました。しかし、僕が把握していたのは次のような内容であったのです。

 任天堂第二開発部長の上村雅之氏が、山内からファミコンの開発を命じられたのは、昭和56年(1981年)のことであった。そのとき山内は電話で一言、こう伝えてきたという。
 「少なくとも一年間は、他社が絶対に真似のできないものを出せ」
 他社が真似できないものという内容には、二つの意味がある。一つは中身で真似できないもの、もう一つは価格で真似のできないという意味である。
「任天堂商法の秘密」 高橋健二 祥伝社(86年)

80年代にファミコンについて書かれた文献を調べると、必ずと言ってよいほど目にするのが、この「他社が一年間真似できないゲーム機を作れ」というフレーズです。
個人的に、「三年間」という説明を目にしたのは初めてでした。

そもそも上村氏がファミコン開発に着手した1981年の時点では、我が国の家庭用ビデオゲーム市場はいまだ"発展途上"と呼べる状況にありました。
そして、仮に「三年間」との指示が事実である場合、当然のことながら山内前社長は開発段階で既にファミリーコンピュータの商品寿命を少なくとも3~4年以上と想定していたことになります。
しかしこれは、「どんなヒット商品も三年以上は続かない」という当時の玩具業界の常識を超えた発想と言えるでしょう。

なにより山内氏自身、玩具ビジネスの厳しさを身をもって知っていた筈です。

「娯楽の業界では老舗だから安心なんていうことはありえない。いつもいつも、新しいものを出してゆかないと生き残れないのです」
「"一寸先は闇"のこの業界で、こうしなきゃならんなどという固定的な考え方は、なんらプラスにならない。それどころか、自ら負けを招くようなものです」
前掲書より、山内前社長の発言

ディズニートランプ、光線銃、そしてゲーム&ウォッチ...。たとえヒット商品を生み出しても、それは儚いものであることを山内社長は痛感していたことがわかります。
率直に言って、「三年間」という言葉を僕は信じることができないのです。

以上の理由からこの"社長が訊く"での発言は、上村氏の記憶違いの可能性が高いのではないかと思います。

ただし僕が把握している限りでは、「他社が一年間~」と書かれた文献はどれも伝聞の形で書かれています。今回の"社長が訊く"のように、任天堂関係者の証言に基づいたものであることがはっきりと確認できたわけではありません。
もしもこの件に関して、上村雅之氏やあるいは山内前社長が過去に発言された実例をご存知の方がいらっしゃいましたら、是非ともコメント欄にご一報願います。

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  • 出版社/メーカー: 任天堂
  • メディア: Video Game

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higrik

文章を読ませていただきました。
私は個人的には社長が「機械開発には一年以上かかる」と考えたため、
「三年間まねできないゲーム機」と発言したのではないかと考えます。
by higrik (2011-01-29 15:17) 

NO NAME

ふたつの引用を合体させると、「三年間、少なくとも一年間は、」と解釈できて、矛盾はないと思います。
by NO NAME (2011-04-21 16:42) 

みちん

「ファミコン陣営の野望」ではリコーの進藤晶弘氏にインタビューしています。地の文でファミコンの開発コンセプトとして「同じものが1年間以内出て来ない高性能」とあって、それを受けて「例えば1年間同じようなものが出て来ないような性能的に優れたICを作るには」と進藤氏が発言しています。おそらく地の文の1年以内云々も進藤氏が著者に説明したものを地の文にしたものかと思います。

「任天堂商法の秘密」は幸い参考文献が挙げられてますので、しらみつぶしに記事を当たれば、直接上村氏が発言してるソースがあるんじゃないでしょうか。
by みちん (2012-11-03 19:54) 

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