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書評 『Racing The Beam – The Atari Video Computer System』 [レビュー]

Racing The Beam – The Atari Video Computer System (Platform Studies)

Racing The Beam – The Atari Video Computer System (Platform Studies)

  • 作者: N Montfort
  • 出版社/メーカー: MIT Press
  • 発売日: 2009/02/03
  • メディア: ハードカバー

「Atari 2600」に学べ--成功するゲームの鍵は「共有体験」と「適応」 (from CNET Japan)

今年の2月に発売されたばかりの新刊。"The Atari Video Computer System"との副題が示すように、1977年に発売された伝説的ゲーム機―――アタリVCSにとことんこだわった一冊です。
(あまり自信がありませんが、書名は「流れ行く電子線」とでも訳せばよいのでしょうか?)

実は以前に米Amazon.comを眺めていた際に偶然見つけた洋書でした。内容がわからないのでオーダーすべきかどうか悩んでいたのですが、上に挙げたCNET Japanの記事が決め手となり購入のはこびとなりました。

誤解を恐れずに言えば、本書は"アタリVCSの解体新書"とでも表現すべき内容です。
アタリ社の歴史、VCS誕生の経緯、ハードウェア解説、ゲーム開発にまつわる数々のエピソード、サードパーティーの登場、そして市場崩壊・・・。
VCSが辿ってきた道を時系列順に追うと共に、その功績と罪過の両面も含めて広範な議論が展開されています。

pacman_vcs.jpg
Pac-Man screenshots (from AtariAge)

例えばVCS版「パックマン」については、アーケード版と比べて見劣りする出来であったことや、当時のVCSの販売台数を遥かに越えた数のカートリッジを製造してしまった「悪名」ばかりが取り沙汰されがちです。
その一方で、アーケード版パックマンはROM容量が16Kであるのに対しVCS版は4KのROMに収めなければならなかったこと、元々VCSはわずか2枚のスプライトを表示する機能しか有していなかったことなど、開発時のやむにやまれぬ状況を筆者らは指摘しています。
全体を通して公平で客観的な態度が貫かれており、非常に好感が持てました。

尚、我が国でアタリショックと呼ばれる83年の市場崩壊について、本書の中では「ユーザーのホームコンピュータへの移行」と「ゲームソフトの過剰供給」の二点が主な原因であると述べています。VCSに主眼を置いた分析であるため仕方がないのかもしれませんが、アタリと同時期に家庭用ゲーム市場に参入していたマテル、コレコ、マグナボックスといったメーカーの動向に全く触れられていないのは非常に残念に思います。

出版元がMIT pressであることからも判るように、この「Racing the Beam」はバリバリの学術書です。ただし具体的な事例や関係者の証言も交えて解説文が過不足なく盛り込まれており、理解の助けとなる図版も数多く掲載されています。本書を通読すれば、VCSとはかつて一時代を築いた偉大なプラットフォームであることを体系的に学ぶことができる筈です。
さすがに、アタリのことを全く知らないような方がいきなり手に取るのはキツイかもしれませんが、70年代から80年代初頭までのレトロゲーム史を把握する上で非常に有益な一冊となるでしょう。

・・・などと偉そうなことを言っておいてなんですが僕自身、技術的な話は超苦手なので読み飛ばしてしまった箇所がたくさんあります。また、"「Yar's Revenge」の元ネタはシネマトロニクスの「Star Castle」"との事実を本書で初めて知りました。
う~ん、僕もまだまだ勉強が足りないです(笑)。
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zentaroh

映画「Atari」の公開にあわせて翻訳版が出て欲しいところです
by zentaroh (2009-04-21 10:42) 

M_t

洋書ということで、自分の能力では読むのに時間がかかるので、ゴールデンウィークまで待とうと思ってました。
正直、CNET Japanの記事では、いまいち内容が掴みづらかったので、このレビューはありがたいです。
まさか、数ページにわたって、Wii Sportsを褒めちぎるとかないですよね?
by M_t (2009-04-21 19:53) 

loderun

>zentarohさん
Atariの映画、どんな内容になるのか心配です。只のサクセスストーリーになってたら嫌だなあ(笑)

>M_tさん
参考になりましたでしょうか?興味がある箇所を拾い読みするだけでも十分面白い本だと思いますよ。
あと、「VCSの先駆的な試みは後のゲーム機でも見ることができる」的な話はありますが、具体的にWii Sportsを褒めちぎるとかはありませんのでご安心を(笑)
by loderun (2009-04-21 22:10) 

お名前(必須)

タイトルですが、raceを他動詞の「~と競争する」と読んで、
「電子線と競争する」かと思います。
ブラウン管の走査中にレジスタを書き換えるAtari2600の描画テクニックを指しているのではないかと。
by お名前(必須) (2017-02-05 12:25) 

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