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偏愛ゲーマー的書評 『プレステ3はなぜ失敗したのか?』 [レビュー]

プレステ3はなぜ失敗したのか? (晋遊舎ブラック新書 (002))

プレステ3はなぜ失敗したのか? (晋遊舎ブラック新書 (002))

  • 作者: 多根 清史
  • 出版社/メーカー: 晋遊舎
  • 発売日: 2007/09
  • メディア: 新書

『プレステ3はなぜ失敗したのか?』公式ブログ

“GK激怒!任天堂信者大喜び!”な感じで、ネット上を中心に話題となっている新書です。

実際、PS3を「失敗」と呼ぶには、今が最高のタイミングだと思いますね。
発売より10ヶ月が過ぎたものの依然として低調な販売台数、対応ソフトの少なさ、「生みの親」である久夛良木氏も6月にSCE会長を退き、残された道は「本体値下げのタイミング」のみと戦略的に詰んでいる状態ですから。
とどめに、昨日になって「CELLの製造設備を東芝に売却」との報道が飛び出すに至っては、ソニーファンでない僕でもため息しか出てきません。
(後にソニーと東芝より、そのような事実はないと発表されたようですが)

では、プレステ3はなぜ失敗したのでしょうか?もちろん本書では、その理由をいくつか挙げています。
例えば、「PS3は高級レストラン」との久夛良木氏のセリフに象徴されるコンピュータ路線、発売日に生じた品不足とその後の転売屋騒動、ブルーレイ規格策定の遅れなどなど、どれもゲーム系ニュースサイトで大きく取りあげられたことのある事実です。

しかし筆者の多根清史氏によれば、それらはあくまで結果として生じたものにすぎません。
「失敗」に至るまでの過程を突き詰めていくと、そこには文科系出身の出井伸之氏がソニーグループのトップに君臨した「失われた10年」に最大の原因があるのではないか?というのがその主張の骨子となります。
詳しい説明は実際に本書を手にとってもらいたく思いますが、僕個人は出井体制の評価を全く知らなかったので、非常に面白く感じました。

また、多根氏は『超クソゲー』を書かれた方として知られます。
クソゲー本に比べるとかなりおとなしめな文体ですが、さりげなくエピック・ソニーの生んだ駄作ソフトとして『パリ・ダカールラリー』の名が挙がっていたり、「ゲーム機の性能の違いが、市場における戦力の決定的差ではない」とどこかで聞いたようなフレーズがあったりと、随所に見られるお遊びには注目(笑)。
内容自体も単なるバッシングなどではなく、そこはかとなくソニーに対する「やさしさ」を感じるんですよね。それは本書の最終章に見ることのできる「PS3よ、イキロ!」との見出しによく現れています。

そういうわけで本書は、ゲーム業界を題材にしたビジネス本として一般の方が読むには、やや不親切かもしれません。やはり、ソニーや次世代機に関するネタを多少なりとも聞きかじっている人向きですね。
「物売るっていうレベルじゃねーぞ」、「ファミコンで音楽なんてやれませんよね」、「ソニータイマー」、「世界で一番美しいものを作った」といったソニーがらみの言葉を目にしてニヤリとしつつ、辿り付く場所さえもわからないPS3の未来を案ずるのが、一番楽しい読み方なんじゃないかと思います。
(逆に、この手の業界本にありがちな、「関係者からの裏話」的な新情報はありません。これが不満といえば不満)


最後になりましたが「偏愛レトロゲーマー」として、本書に対しニ点ほどツッコミを。

まず、「HiT BiT」とはソニーMSXのブランド名であるかのような記述がありますが、ちょっと違います。正確にはSMC-777を含めてソニーのパソコン製品全体のブランド名として使われていました。

次に、第三章109ページの“わざと「アタリショック」を起こした?”の項について。
多根氏の主張を要約すると、以下のようになります。

粗悪なゲームが市場に氾濫したことで知られるアタリショックだが、近年になってそれは都市伝説にすぎないとの見方が有力になっている。
また、「玉石入り混じるカオス」は決して悪いことばかりではない。志あるメーカーはゲームの質を向上させようと努力するだろうし、消費者の目も鍛えられる。
PS1発売当初、ソニーは開発機材を安価で提供したり、「ゲームやろうぜ」で新人クリエイターを発掘した。結果として初期のPSは、「アタリショック」のようにクソゲーであふれかえった。
しかし、そのような野心家の才能を集められる勢いがあってこそ、ゲーム機は成功するのではなかろうか?

う~ん、仰りたい事はよくわかるのですが、「アタリショック=粗製濫造」との単純な認識が根深く定着しちゃっている現状では、あまり不用意に例として出すべきではないと思うのです。
あと、話せば長くなるのですが、アタリショックで真に問題だったのは「消費者離れ」や「小売店の倒産」などではありません。比較的良質のゲームを供給していたアクティビジョンやイマジックですら影響を被るほどに、メーカー全体の収益構造が悪化した点にあります。メーカーやクリエイターたちが育つ暇もなかったんですよね。
あ~、やっぱり一度「アタリショック」について書かなきゃダメかな?

(07/9/18) 本文一部訂正


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コメント 4

Aya

ttp://wiki-mirror.sakura.ne.jp/ps3koke/index.php?TopPage
これにもPS3がダメな理由が色々書いてありますが・・・どこもかしこも突っ込み所があるんですよね(笑)
by Aya (2007-09-17 06:16) 

loderun

URL貼るときは、h抜かなくていいですよん。
リンク先をざっと眺めてみましたが、実際にPS3はコケちゃってるので結論として間違ってはいないと思います(笑)
by loderun (2007-09-17 12:32) 

Mr.T

プレステ3のマイナス要因は全てBDにあるな。(これが全て、価格高騰、不毛なソフト、規格の押し付けetc)ユーザーが求める機能より優先して、メーカーのエゴが前面にあふれ出ている。反射的に拒絶してしまった。
by Mr.T (2007-09-27 23:33) 

loderun

http://plusd.itmedia.co.jp/games/articles/0602/20/news018.html
メリルリンチの試算にあるように、PS3の価格高騰はBDのみならずCELLも原因の一つだと考えられます。
また、次世代DVDの一規格が、どうして「不毛なソフト」を生み出すことに結びつくのか意味不明です。

いずれにしても、『プレステ3はなぜ失敗したのか?』を一度読まれる事をおすすめします。
by loderun (2007-09-28 09:18) 

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