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野球ゲームの「リアルさ」とは? [レビュー]

JAPAN: Why The Big Head?

米国のゲーム系ニュースサイト、4 color rebellionで紹介されていた記事です。
「どうして日本人は、頭の大きなキャラの野球ゲームを好むか?」との疑問を元に、分析を行っています。

以下、オレの把握した限りでの要約。

■日本の野球ゲームの代表作としては、コナミの「実況パワフルプロ野球」と、ナムコの「ファミリースタジアム」(訳注 「プロ野球熱スタ2006」のことだと思われる)が挙げられる。
両者に共通するのはプロ野球選手の実名を使用していること、そして“大きな頭に小さな体”というマンガ風のキャラだ。

■実はコナミにしろナムコにしろ上記のタイトルとは別に、リアルなグラフィックの野球ゲームをリリースしている。しかし、我々には奇妙に思えることだが、売り上げが大きいのは常にマンガ的キャラの野球ゲームなのだ。

■その理由だが、まず第一に日本のユーザーは野球ゲームを、あくまで現実とは異なる「シミュレーション」として認識しているからではないかと思われる。それ故、彼らは野球ゲームにリアルさを求めないのだ。

■別の観点から考えてみよう。マリオの“赤い帽子にオーバーオール、口ひげ”という姿は、当時の限られたハードウェア性能のために生まれた。同じ理由で、ファミコン時代の野球ゲームは“大きな頭、小さな体、顔に付いてるのは目だけ”というデザインを採用せざるをえなかった。
そして、ファミコンより20年経った今でも、日本のユーザーたちは慣れ親しんだ昔のデザインを忘れていないのである。
言うなれば、マンガ調のデザインは日本人にとっての「フェティッシュ」(興味を惹きつける対象)なのだ。

■同様の例は「ボンバーマン」にも見ることができる。FC版のパッケージを見ての通り、本来のボンバーマンは恐ろしげなSF風ロボットである。しかし、ゲーム中では可愛らしいキャラに変更されてしまった。
リアル調のキャラを採用した「ボンバーマン アクト:ゼロ」に対して非難の声が上がっているが、これこそ「ボンバーマン」の元々のコンセプトに沿ったものである。

■結局のところ、現在の技術ではまだまだ本物の野球を再現するまでには至ってない。
かつてアクレイムの社長は「テレビ中継と見間違えるほどリアルな野球ゲームを作ることが我々のゴールだ」と語った。その時が来れば、日本でもリアル調の野球ゲームがリリースされることになるのではなかろうか。

あ~、たぶんこんな意味合いだと思います。誤読している部分がありましたらご指摘ねがいます(笑)

んで記事の内容ですが、かなりツッコミどころ満載ですね。
まず、ナムコの「熱スタ2006」の件ですが、確かにファミスタモードが収録されているものの、それはあくまでオマケ。本編はリアル調の野球ゲームです。

さらにボンバーマンの話に至っては、あまりに誤解が多すぎます。
元々「ボンバーマン」は、MSXをはじめとするオールドPCでリリースされたゲームです。そして主人公キャラは、ロボットではなく人間でした。
(参考リンク)
ボンバーマン (from Tagoo)

また、レトロゲームファンには常識ですが、FC版「ボンバーマン」のグラフィックは、元々「ロードランナー」の番兵として使用されていたものです。「地下工場のロボットが、人間の姿を取り戻すために戦う」というストーリー自体も、FC版での後付けですし。

以上の点から、“ハードウェア性能の制約により、ゲームキャラをマンガ風にデフォルメしなければならなかった例”として「ボンバーマン」を挙げるのは不適切だと言えます。
つうか、FC版のボンバーマンの箱絵って、そんなに恐ろしそうに見えるかぁ?海外で発売された、PCエンジン版ボンバーマンの方がよっぽど怖いぞ(笑)

そもそも、“ファミコンのスペックでは、リアル調の野球ゲームは作れなかった”という説明自体がおかしい。
我々は「燃えろ!プロ野球」という偉大な先例を知っているはずです。また、海外版ファミスタの「RBI Baseball」も、一作目では日本版と同じデフォルメキャラでしたが、続編ではリアル調に変更されました。
(参考リンク)
「R.B.I. Baseball」 Screenshots
「R.B.I. Baseball 2」 Screenshots (from Moby Games)

尚、余談ですが「燃えプロ」以前にピッチャー方向からの視点を採用したビデオゲームとしては、「HardBall!」(85年)という作品が存在します。実は我が国でもMSXで発売されていたり。
また、FCよりはるかに低スペックなATARI VCSも、やはり「Pete Rose Baseball 」というピッチャー方向視点のゲームがリリースされています。

以上、長々と反論しましたが、結局のところ野球ゲームに「マンガ的キャラ」を用いるか、それとも「リアル調のキャラ」を用いるかは、技術的な問題ではない。20年前の昔より既に欧米と日本との間で、グラフィックに対する嗜好の違いがはっきりと生じていた訳です。
この問題は、欧米人と日本人では「リアリティ」というものの認識にずれがあるからだと、僕は考えます。

例えば「パワプロ」ですが、実在選手の個性的なフォームが再現されているし、タイトルに謳われている“実況機能”も非常に臨場感がある。選手の能力値、ピッチャーの球種も実に豊富です。
マンガ的キャラながら、「リアル」な要素は多分に含まれていると言えます。しかし欧米人はどうか?
おそらく、欧米人はこのような「リアルさ」を認めることができないでしょう。

ここで僕が思い出すのが、岡田斗司夫氏の「オタク学入門」の一節 ― 見立てと特撮です。
(参考リンク)
『オタク学入門』 (from OTAKING SPACE PORT)

岡田氏はハリウッド映画のSFXを写実主義に、日本の特撮を抽象主義になぞらえ、その根底には日本人が古来より持つ「見立て」の文化が存在すると説明します。
例えばチャチなミニチュアでも、そこに重量感を感じさせる演出があれば「リアル」になりうるというわけです。

特撮の心とは「イメージを大切にする心」であり、本物そっくりではなく「すごい」「かっこいい」「いかにも」「かわいい」といった感情を引き出すことを意識して作ることでもある。  そのための方法論としてデフォルメと省略がある。何をどのくらい強調し、何をどのくらい省略するか、に特撮監督のセンスを見て欲しい。それが「粋の眼」で特撮を見ることなのだ。

これは特撮のみならず、ビデオゲームでも同様でしょう。
パワプロが野球ゲームのトップセラーを誇る理由は、サクセスモードの面白さやプレイアビリティの良さだけではない。「見た目ではないリアルさ」を日本のユーザーが評価しているからです。

日本人が「見立ての心」を失うことがないかぎり、この先どれほどコンピューター技術が進歩しようとも、デフォルメされたマンガ的キャラの野球ゲームは作り続けられる ― そのように僕は信じます。


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コメント 2

実際にパワプロシリーズを毎年プレイしている身なので、とても興味深い記事でした。

リアルな頭身でなくても、充分に『プロ野球ごっこ』として遊べるんですよね。
プレイヤーの脳内では、リアルな清原や新庄が活躍しているものなんです(笑)。
by (2006-07-28 10:19) 

loderun

お、実際にパワプロをプレイされていましたか。
そうなんですよね、どうもガイジンさんは「脳内補完」ってやつが苦手みたいなんですよね。

もっとも、サッカーゲームに関してはご存知の通り、リアル系のウイイレがトップセラーの地位にあります。(上の記事を書いた方も、まっさきその部分を疑問点に挙げてました)
その辺りをどのように説明すればよいかは、僕自身もちょっと判らないです。今後の研究課題ということにしておきます(笑)
by loderun (2006-07-29 20:31) 

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