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“自称おたく”のおたく知らず ― 「ライブドア問題」に寄せて [日記・雑感]

偶像「堀江貴文」の失墜 “損得ゲーム”の果てに

長山 靖生(評論家)

 ライブドア前社長の堀江貴文社長が、証券取締法違反容疑で逮捕された。堀江前社長は、一時、人気急上昇中の若手芸能人のようにテレビに出まくり、衆院選にも立候補した。

■ニュートラル

 アニメキャラクター「ドラえもん」にちなんで、ホリエモンと呼ばれた堀江前社長は、よくも悪しくも「子供」だと見なされていた。彼を支持する人々は、そんな彼に現代日本の閉塞状況を打開する、文字通りの型破りな発想と活動を期待し、逆に彼を嫌う人々は、そこに既成社会の秩序に揺さぶりをかける危険なにおいを感じていた。
 世間には、堀江前社長をIT新人類でおたくだとする見方もあるらしい。たしかに彼の服装も、適当にふくよかな体形も、おたくのイメージに適合している。だが、彼の精神構造はおたくとは異質のものだ。おたくは、何らかのモノなりコトなりに徹底的に執着する存在である。時には自分自身という存在以上に、その「何か」を大切にする。正真正銘のおたくを自認する私の目から見て、堀江前社長にはそんな執着心は感じられなかった。
 彼はきわめてニュートラルな態度で物事に対していた。その判断基準は「損か、得か」だけであり、「正しい、正しくない」はもちろん、「好き、嫌い」さえもなかった。

■醒めた勝負

 あえていうなら彼はゲーマーなのだ、と私は考えていた。ゲーマーとは、ゲームに没頭する者のことで、おたくとは混同されがちだが、資質は大きく異なっている。おたくは自分がこだわる対象を愛しているが、ゲーマーは「価値」を重んじない。すべては「どうでもいい」のであり、同じ「どうでもいい」なら高得点(マネーゲームの場合はもうけの多い)が「勝ち」というだけのことだ。取り組むゲームの質的内容へのこだわりも薄く、時には自分がやっているゲームを「くそゲー」などとバカにしさえする。
 もっとも、醒めているからこそ、淡々と勝負に打ってでることができたのかもしれない。しかし堀江前社長は法律という最低限のルールさえも守らなかったとされる。この点、彼はゲーマーとしても失格してしまっている。
 では、おたくではなくゲーマーにもなりきれなかった彼は、実際は何者だったのかといえば、現代日本の経済人そのものだというのが、正解だろうと思う。

■当然のごとく

 ハイリスク・ハイリターンの賭けに打って出る度胸も、法律違反すれすれでの抜け穴的方法を見つけ出す知恵も、今日では「有能」と評価されてしかるべきものだと見なされる。だからこそ彼は、時代の寵児ともてはやされた。彼は今時の若者やおたくではなく、虚妄の「回復」が喧伝されている日本経済にいちばん似ている。ライブドアの「事件」で株式市場は揺れたが、情報技術(IT)業界の業務自体は影響を受けなかった。現代日本では、実は株式市場やその価値のほうがバーチャルなのである。
 今回の事件は、堀江前社長のキャラクターが引き起こした特異な事件ではない。1990年代以降の規制緩和やIT革命、市場中心経済などの向かう先に、当然のごとく発生した事件であり、もしかしたらほかにも潜んでいる可能性がある事例なのだ。




1月27日付けの神戸新聞朝刊より。ネット上には今の所、ソースは見出せません。
一部抜粋で済まそうかとも思いましたが、切り張りした文章を批判するのは公平ではないと思い、全文を引用させてもらいました。

一読しただけで即座に10箇所くらい疑問点を思いつきそうな、困った論評です(笑)
堀江氏のパーソナリティーについての分析は個人的にはどうでもいいのですが、「おたく」や「ゲーマー」を話題に取り上げられては捨て置くことができません。

特に問題なのは、記事中盤の「醒めた勝負」の項。
自分で「堀江=ゲーマー」説をぶちあげておいて、「最低限のルールさえも守らなかった」ことから彼を「ゲーマー失格」とする結論に引っくり返りました。なんだそりゃ(笑)

どうしてこんな奇妙な理屈がまかり通るのかと言うと、この長山氏は現実世界の「法律」と、ゲームにおける「ルール」が全く同質のものであると誤解しているからです。
この考え方が根本的に間違っている。
何故なら、ゲームの世界での「ルール」とは、あくまで“ゲーム製作者が設定した取り決め”に過ぎない。「ルールを破る」ことは悪でもタブーでもなんでもありません。

ゲームのルールを盲目的に遵守するのではなく、その綻びを探す。あるいは、ルール違反によるペナルティすらも“ゲーム性の一部”として楽しむ。
前者だと、レースゲームで、コースデザインのミスを突いたショートカットがこれに当たるでしょう。また後者だと、プレイヤーの努力により「永パ防止キャラ」対策が確立された作品の数は、枚挙に暇がありません。

微妙に例えが古いですが、『beatmania 2ndMIX』のSKAで譜面を無視して「カエルの歌」を演奏する魅せプレイに至っては、スコア的なメリットが全く無い、究極のルール無視と言えます(笑)
このように、製作者の意図を超えた“自由な遊び方”を、ゲーマー達は常に編み出してきました。

誤解のないように断っておきますが、「ルールを破る」とは“反社会的な行為がゲームの中では許される”との意味ではありません。
僕が主張したいのは、「真のゲーマーと言うものは必要あらば、ペナルティを覚悟の上でルール違反をする人種である。また、そのような“自由な遊び”ができることこそ、ビデオゲームの楽しさの一つではないのか?」ということです。

そういう訳で、敢えて長山氏の理屈につきあうのなら、証券取引法という名の「ルール」を無視して株価操作に勤しんだ堀江氏の行為は、まさに「スコア目的の稼ぎプレイ」と考えることができる。うん、立派なゲーマーだ(笑)
故に、ホリエモンは「最低限のルールを破った」ことが悪いのではない。穴の多い攻略法で、「世界一のスコアを目指す」などと公言していた点がゲーマー失格なのです。

そもそも、長山氏は「ゲーマーは、ゲームの質的内容にこだわりがない」と説明している。しかし、直後に「くそゲー」の話題を出しているのは大問題だ。「くそゲー」とはまさに、「質的内容が他と比べて劣るゲーム」を揶揄する言葉ではないのか?
ここまでゲームについて無知だと、長山氏の「正真正銘のおたくを自認する」との言葉自体、極めて疑わしいと断言せざるをえない。

はっきり言ってこの文章、「堀江氏の正体は現代日本の経済人そのもの」などという至極平凡な結論に着地するのなら、「醒めた勝負」の項を削除しても論旨上問題ありませんね。
わざわざ余計なことを書かなければ、こんなネットの片隅とはいえ、晒し上げられることは無かったのに(笑)

最後に一言断っておくが、もちろん僕は堀江容疑者がゲーマーだとは考えていない。理由は先日の記事にも書いた通り、現実の株取引なんてものが「楽しい」とは到底思えないからだ。

まして自殺者を出してしまった「ゲーム」など、僕は認めることはできない。絶対に。


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swimie

「くそげー」という言葉の裏に隠された
愛を感じられない人が、正真正銘のオタクと
自称されるとは、大変愉快ですね。

それはさておき、接続詞が全く無く、読みにくい
文章ですね。loderunさんが字を大きくしてくれた
おかげでとても読みやすくなりました。
そして、その大文字の箇所が私も強く違和感を感じる
箇所でした。思うに長山さんが用いる
「ゲーマー」の意味が根本的に違うような。
そこが違和感の発生源のような気がします。
その単語を長山さん流の用法に付き合うと
文全体は納得できるような・・・。でも
日本経済は倫理観が欠如している、の一言で
カタがつきそうな気も、文筆家も大変な御商売ですね。
by swimie (2006-01-30 00:51) 

Aya

ゲーマー観点としてはこんな感じですね。

僕らも3rdを「くそげーくそげー」って言うけど、これは「自分のミスでの結果でくそげー化した」という全部自分の責任の下でやってるゲーム。
無論、本気でくそげーでしかない「ユン戦」でもやる・・・負けるって分かってる試合でもやる。
製作者の作ったルールの中で我々は戦っている訳だけど、そこからルール外の事をして相手のテンポを狂わせて勝つって戦術を使ったりする。

正直「相当変わった事やるね」って言われた事があるからだけど、それが自分の使っているキャラへのこだわりであり、自分の出した回答だからこそ変わった事になっただけで、他人と同じ事をやっててもいずれは停滞するんだから、そっから進む為にどうするかを考えるのがゲーマーであり、プレイヤーである。

実際に「乱入されたくないのなら家でやってりゃいいじゃん」って言うだけに如何にしてくそげー状態を阻止するかってのもゲーマー・・・むしろ特定のキャラ使いって言われる位にそのキャラを遊んだり調べたりしたからこそ出るくそげーという回答。
だから、同じ「くそげー」って言葉でも「自分で対策まで調べて出たくそげー」と「全くやりもせずに言うくそげー」では天と地の差がある。


ちなみにうちらの3rdで「このゲームくそげー」って言う時はある意味愛があったりするのがスゲー不思議な感覚で、多分一定の域を超えたプレイヤーにしか分からないっていう優越感半分と分かって貰えない悲しさ半分だったり。

そういう訳で、自分自身、DCとPS2と基板の各種ストIII 3rdを持っているけど、ストIII 3rdは楽しいくそげーです(笑)
というか・・・多分プレイヤー自身が一番「くそげー」って言うゲームだと思うw
by Aya (2006-01-30 08:30) 

fielder

初めまして!
先日のブログにおいて「同感する」という言葉についてですが、自分の誤まった表現でした。「中身が空っぽの記事」というのが、本来の自分の意見です。
何気に書いた言葉だったのですが、不用意でした。
気分を害されるような表現を、その後のブログでも書いてしまい、本当に済みませんでした。
by fielder (2006-01-30 18:46) 

loderun

>>swimieさん
僕は長山氏の著作を読んだことはありませんが、どうも氏の言う「おたく」とは、ニュアンス的には「蒐集家」に近い気がしてならない。同様に、「ゲーマー」についても「バクチ打ち」と言い換えた方がすっきりする。

新聞記事という限られた字数の中で意見を表明する場合、多少は「言葉足らず」になるのは仕方ないのかもしれません。しかし、「評論家」という言葉のプロを生業としているのであれば、せめて「クソゲー」の定義ぐらいはしっかり調べて欲しいものです。

>>Ayaさん
対戦格闘ゲームなんか、まさにモニター越しに座る「人間」との勝負ですからね。僕もかつてVF2に大ハマリした人間ですが、キャラ差をひっくり返して勝利した時は本当に嬉しかったです。

つうか、いつも思いますがストIII 3rdを楽しくプレイできる人は、単純に尊敬してしまいます。ブロッキングなんて、僕には絶対出来ない(笑)
by loderun (2006-01-31 11:26) 

loderun

>>Fielderさん
こちらでは、はじめまして。コメントありがとうございました。
長山氏の論評が「中身が空っぽ」である点について、私と意見が共通することを確認でき嬉しく思います。また、貴方のブログにも書きましたが、公開された文章に対して批判や感想を述べることは、何ら妨げられるものではありません。
お互いにブログを通じて意見を発信する立場として、今後とも切磋琢磨していきましょう。
by loderun (2006-01-31 11:34) 

loderun

>>crestさん
はじめまして。
ご指摘頂くまでもなく、長山氏が「ホリエモンはニュートラルな気質の持ち主」と説明するために、おたくやゲーマーを例に出したに過ぎない事はよく理解しています。
しかし問題なのは、長山氏が描く“ゲーマー像”が無知と偏見に満ち溢れている点です。

文中で長山氏は、「彼(ホリエモン)はゲーマーなのだ、と私は考えていた」と述べました。その上で、「最低限のルールさえも守らなかった」から“ゲーマー失格”としています。この論旨のどこが間違いであるかは、上で私が指摘した通りです。

あと記事には書きませんでしたが、「堀江氏がニュートラル」であることから、「彼は現代日本の経済人そのもの」とする氏の結論にも疑問を感じます。上場企業の犯罪なんて、80年代以前のいつの時代にも見られる現象ですが?
by loderun (2006-02-13 22:21) 

loderun

長山氏は、まがりなりにも評論家として文筆活動を行っている人物です。例え一般読者向けであっても、誤った認識を振り撒くことが許されるとは思えません。まして、「おたく」を自称してるのなら尚更です。

また、crestさんは「ゲームのイレギュラーを、仕様として受け入れるかどうかはまた別の話」と述べられました。「別の話」ではなく、重要なのはまさにその一点です。

現実世界での法律は、何人に対しても遵守が求められます。これに対して、ゲームのルールをどのように受けとめるかはプレイヤーの自由です。
貴方が「ゲーマーはルールを守って遊ぶ人であるべき」との主義をお持ちなら、それはそれで構いません。しかし、私が「バグ技」、「魅せプレイ」と具体例を出したように、本来のルールから逸脱したゲームの遊び方は広く受け入れられています。

“イレギュラーなプレイスタイル”が「例外中の例外」であり、「絶対に許されない行為」であるとの論拠が示されない限り、長山氏の“ルールを守らなければゲーマー失格”との理屈は成立しません。

逆にcrestさんにお聞きしたいのですが、長山氏の「質的価値を重んじず、損得勘定だけで行動する」というゲーマー像に、貴方は賛同されるのでしょうか?
by loderun (2006-02-16 13:11) 

loderun

「今の現状がそうだから、そう言っているのだと思います」との文章が、よくわかりません。長山氏が一般読者のレベルにあわせて、敢えて「誤ったゲーマーの定義」を披露していると、解釈してもよろしいのでしょうか?

だとすれば、私がこのようにブログを通じて意見を表明することは、長山氏のみならず一般人に対しても「無知と偏見」を是正する一助となりますね。誠に結構なことです。

次に、「ルールを守らなければゲーマー失格」の部分について。
crest さん自身が述べられているように、本稿でのゲーマーとは“コンピューターを使って作り上げられたゲームをする人”であるのは明らかです。
にもかかわらず、ビデオゲームとは関係の無いサッカーを例に出した上で、“ゲーマーを広い意味で「ゲームをする人」”などと定義を拡大するのはナンセンスですね。

crestさんは、ゲームの質とは“文字やデータ”の“表面的なもの”と説明されました。そうなりますと、長山氏の論評に出てくる「くそゲー」との言葉の間に論理的な齟齬が生じます。クソゲーとはまさに、「つまらない」、「難易度が高すぎる」、「理不尽なシステムやストーリー」といった“内的”な部分が劣るゲームのことではないのでしょうか?
端的に言って、長山氏に決定的に欠落しているのは、「楽しい」、「楽しくない」という視点ですね。

私としましては貴方に、長山氏の描くゲーマー像について賛否いずれの立場なのかを、是非とも表明していただきたいです。
crestさん個人がビデオゲームに対して、「好き、嫌い」の感情を今までに一度も抱いたことが無く、「どうでもいい」と思いながら常にプレイされているのだとしたら、本件に関する議論は平行線を辿ったままになると考えます。

>追記部分
長山氏がおたくにもゲーマーにも理解があるのなら尚のこと、一般読者に対して「正しい言葉」を用いるように希望します。“株式市場がバーチャル”って、意味わかります?
by loderun (2006-02-16 16:05) 

loderun

一度投稿したコメントを何の説明もなしに削除した上に、「ありがとうございました」などと一方的に議論を打ち切るcrestさんの態度は如何なものでしょう?
「長山氏は“くそゲー”とひらがなで表記しているから、“クソゲー”とは別の意味」との珍説については、是非ともツッコミたかったんですけどね。

ビデオゲームのルール違反をあれほど頑なに否定していた貴方が、他者との議論において「最低限のルール」すら守れない人間であったとは実に傑作です。

尚、「バーチャル」の意味については、下記のWEBページを熟読されることをお勧めします。
○仮想現実(Wikipedia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BB%AE%E6%83%B3%E7%8F%BE%E5%AE%9F
by loderun (2006-02-18 15:34) 

loderun

crest氏が削除したコメントは下記の通り。はっきり言って、やってることは「コメント荒らし」に等しい行為ですね(苦笑)

http://blog.so-net.ne.jp/_images/blog/loderun/2709739.jpg
by loderun (2006-03-02 13:18) 

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