SSブログ

NEXAとギルマン・ルーイと『F-16 ファイティングファルコン』の物語 [レトロゲーム]

時として一つの小さな誤解が、一人の人生を大きく変えることがあります。
アメリカでNEXAという開発会社を営んでいたギルマン・ルーイにとっての転機は、1983年のウエストコースト・コンピューターフェアでした。6×6フィートの小さなブースで商談を待つギルマンの顔を見て、“マイクロソフト/アスキー社の幹部”を名乗る人物がこう話しかけてきたのです。

「日系アメリカ人のゲーム会社なんてものが存在するとは知らなかった、と彼は言うんだ。もっとも僕は日系人じゃないんだけどね。そのことは黙っておいたよ」 (ギルマン・ルーイ談)

程なくして、驚くべき知らせが届きます。当時ギルマンは、サンフランシスコ州の実家を拠点に様々な業務をこなしていました。そんな彼の元を訪れるために、8人もの日本人ビジネスマンがサンフランシスコ空港にまで来ているというのです。
突然の来訪者たちに戸惑いつつも、 ――― 「表にアスキー、裏にマイクロソフトと書かれた名刺を持つこの男たちは、いったい何を考えているんだろうかって思った」 ――― ともあれギルマンは、海の向こうの日本で販売されているMSXという名のコンピューター向けに、ゲームソフトを開発する契約を彼らと取り交わしたのでした。


【 NEXAのゲームたち 】

star_ship_simulator.jpg
●『スターシップシミュレーター』 (1984年)

「僕にとって三作目の、“スタートレック”タイプのゲーム」 (ギルマン・ルーイ談)

アスキーから発売されたMSXゲームで、NEXAの名義が確認できるのは合計三作品。
まずこちらはギルマン氏のコメントの通り、古典PCゲームの『スタートレック』を元にした宇宙戦SLGです。タイトル画面にバッチリと、"by Gilman G. Louie"とクレジットされてますね。

余談ですがTagooのコメントを読んでいたところ、“『コスモジェネシス』の原点”と書かれていてハッとしました。むむ、確かに似てるかも。
そうなるとアスキーの初期ファミコン作品って、『SASA』も『ボコスカウォーズ』も『ぺんぎんくんWARS』も移植ですし、完全オリジナルと呼べるのは『ゲイモス』だけってことになるのかな?



captain_cosmo.jpg
●『キャプテンコスモ』 (1984年)

「え?これって洋ゲーだったの?」と個人的に驚いた感じの、ちょっと毛色が変わったアクションゲーム。キャプテンコスモを操って、動物園から逃げ出した宇宙怪獣たちを檻に戻すとステージクリア。
初期のMSX作品の割には大きめの多色スプライトがキビキビと動いており、見た目はなかなか良いです。
ただ、あまりにキャラが動き過ぎるのも考えもの。敵の攻撃が激しいために、避ける暇もなくいつのまにかミスしていること多し。全20面クリアなんてムリだと思う、絶対。



f16_fighting_falcon.jpg
●『F-16 ファイティングファルコン』 (1985年)

おそらくNEXAのゲームの中で、最も名が知られている作品がこれ。同年末にはセガマークIII版も発売されました。*注 非力なMSXでF-16のドッグファイトをシミュレート。点描表現の3D空間がいい味出してます。
なんと専用ケーブルを使えば、ジョイスティックポートを介して2台のMSXで対戦が可能!たしか当時のMSXマガジンで大々的にプッシュしていた記憶があります。果たして、実際に対戦プレイの経験がある人はどれほどいるのでしょうか?(笑)


【 フライング・ハイ 】

「あまりにニッチすぎる作品なので、1万本ほどしか売れないと思っていた。実際には10万本も売れたんだ」 (ギルマン・ルーイ談)

結果的に、『F-16 ファイティングファルコン』はギルマンの出世作となりました。
本来は日本のMSXのために作られたゲームですが、マークIII版は欧米でも発売されています。(ただしすべての操作を使いこなすにはキーボードが必要なため、クソゲー扱いされることが多い)

後にギルマン氏のNEXAは、スペクトラム・ホロバイトと合併。同社の共同経営者となります。
スペクトラム・ホロバイトと言えば、アメリカでパソコン向けの『テトリス』を発売した会社。“テトリス事件”のエピソードの中に登場するため、その名を聞いたことがある方も多いでしょう。
そして日本ではあまり知られていないかもしれませんが、ギルマンは同社で『F-16 ファイティングファルコン』の続編と呼ぶべき作品を手がけています。
それが、1987年にIBM-PCとマッキントッシュでリリースされた『ファルコン』です。

falcon_movie.jpg
Falcon (from YouTube)
Falcon screenshots (from Moby Games)
16-bitベースのプラットフォームで新たに生まれ変わったこのゲームは、フライト・シミュレーターの傑作として高い評価を受けます。(なんと50万本以上も売れたそうです)

「クレオパトラの鼻がもう少し低かったら・・・」とは、歴史のIFを言い表す有名なセリフです。
もしも1983年のあの時、ギルマン・ルーイがその容貌から日系人だと誤解されなければ、ゲームの歴史は今とはちょっぴり違ったものになっていたかもしれませんね。


【 補足 】
* 『F-16 ファイティングファルコン』のマークIIIへの移植作業は、日本のセガで行われた。(『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』の中裕司氏が関わっている)
ちなみに隠しコマンドを入力することで、BGMを『スペースハリアー』の曲に変更できるそうだ。 

(参考文献)
○HIGH SCORE!: the illustrated history of electronic games
タグ:ゲーム
nice!(2)  コメント(7)  トラックバック(0) 
共通テーマ:ゲーム

nice! 2

コメント 7

M_t

>なんと専用ケーブルを使えば、ジョイスティックポートを介して2台のMSXで対戦が可能!
手持ちのMマガ資料によりますと、ケーブルの名称がJOY-JOYケーブルと書いてあります。
子供時代は敷居が高かったですが、今なら やってみようかと・・・世界的な不景気にバカな考えが、湧いて出てきましたが、JOY-JOYケーブルは何処で手に入るんでしょうね。
SEGA mkIIIのファイティングファルコンにも同名のケーブルが用いられていたようで、こちらも、用途的に2台のキーボード(SK1100)を繋ぐためにあったようです。
SEGAにしろMSXにしろ、ケーブル自体が、今となっては幻のようです。
by M_t (2008-12-27 00:02) 

loderun

おっと、補足ありがとうございました。
ちょっと調べてみたのですが、マークIIIの通信ケーブルはプリンタインターフェイスを接続するようですね。
http://homepage3.nifty.com/st-2/f16vs3.html
MSXの方は、ジョイスティックポート接続で間違いなかったでしょうか?

あとMSX版ファイティングファルコンの発売日がもしお分かりになるのでしたら、教えていただけるとありがたいです。(セガ版の発売日と、どのくらいの間隔があるのか気になっています)
by loderun (2008-12-27 23:17) 

M_t

ジョイスティックポートの件ですが、JOY-JOYケーブルの名前と、2台のMSXと2個のROMという情報くらいしか載ってませんでした。
ご期待に副えず、申し訳ないです。
あと、発売日もわかりませんでした。すいません。
参考になるかどうかわかりませんが、1985年10月号ログインにて1985年7月20日現在の全国TOP20のランキングでMSX版が初登場8位となっております。7月20日以前というのは間違いなさそうです。
あと、1つ気になるのは、F16ファイティングファルコンの取説にケーブルの作り方が書いてあったという某掲示板の書込みを見たのですが、本当かどうか知りたいところです。
by M_t (2008-12-28 01:39) 

loderun

いえいえ、参考になりました。
MSX版ファイティングファルコンの発売は85年の6~7月頃になりますね。そうなると、マークIII版は85年12月22日発売ですので、MSX版の発売と間を置かずにセガは移植作業に着手していたことになるのでしょうか。

どういういきさつで、アスキーが販売権を持つゲームがセガに売り込まれたのか気になるところです。

by loderun (2008-12-29 08:25) 

zentaroh

通信ケーブルは店頭売りじゃなかったんですよね
セガに問い合わせないと買えなかった筈
by zentaroh (2008-12-30 12:03) 

M_t

どうも、自分のコメントに補足です
知人からの情報でMSX版の2プレイ接続方法がわかりました。
MSXの接続はジョイスティックポート2ともう一台のMSXのジョイポート2に差すそうで、繋げて両MSXのF2キーを押したあと、一台目が[1]キー二台目が[2]キーを押して カナキーのLEDが点灯したらOKだそうです。
ケーブルの作り方も解ったので、一度、作ってみたいと思います。
あと、問題はROMカセット2個用意することだったりして・・・

by M_t (2009-01-05 22:44) 

loderun

>zentarohさん
返事が遅くなり失礼しました。MSX用のケーブルも、アスキーで通信販売してたような記憶がありますが、ちょっと自信がないです。

>M_tさん
ご丁寧にありがとうございました。というかM_tさんの方の記事読みました。スゴイ!本当に対戦プレイされたんですね(笑)
by loderun (2009-01-11 21:29) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。