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偏愛ゲーマー的書評 「日本を変えた10大ゲーム機」 [レビュー]

日本を変えた10大ゲーム機 (ソフトバンク新書 87)

日本を変えた10大ゲーム機 (ソフトバンク新書 87)

  • 作者: 多根 清史
  • 出版社/メーカー: ソフトバンククリエイティブ
  • 発売日: 2008/09/17
  • メディア: 新書
新刊『日本を変えた10大ゲーム機』が発売!
『日本を変えた10大ゲーム機』目次ですよ (from SIZUMA DRIVE)

■良かった点
単純に、「読み物」として面白いです。
著者の多根清史氏自身が認められているように、まず本書のテーマとしてはインベーダーからPS3に至るまでの30年に渡る「ゲームと日本社会の関わり」という大きな枠組みがあります。
そして同時に、“リアルタイムで『ゲームセンターあらし』や高橋名人に憧れていたコドモ目線を取り入れる”という、欲張りな試みがなされています。
具体的に言うと、「ポン」から「ブレイクアウト」までのアーケードゲーム史をバッサリと切り捨てる一方で、YMOに関する話題に4ページも費やされているとか、「ファミ拳リュウ」や「ファミ魂ウルフ」といったおバカなファミコンマンガの解説が妙に詳しいあたりとか(笑)。

加えて、氏のクソゲーレビューに比べると表現は抑え目ですが、随所に見られるお遊びは見逃せないところ。
これも具体的に言うと、エピックソニーの駄作FCソフトとして「田代まさしのプリンセスがいっぱい」が挙げられていたり、Xboxの失敗例として「ねずみくす」の“ふさふさ”に言及されていたり、PS3の分散処理をドラゴンボールの元気玉に例えていたりとか(笑)。

ビデオゲームにまつわるマクロな話題とミクロな話題が上手い具合にまとめられており、その上にトッピングとして分かる人には分かる系の小ネタが散りばめられているのが、本書の魅力と言えます。
現在20歳代後半から40歳代までの物心ついた時からゲーム機を遊んでいたようなゲームファンの方でしたら、間違いなく楽しめる一冊だと思います。


■悪かった点
しかし非常に残念なことに、本書には誤った記述が多数見られます。

・4ページ
「日本のゲームは数少ない輸出産業」という説明の中で、JEITAの調査による2000年度のソフトウェアの輸出入金額が示されています。しかし、これは肝心のビデオゲームが含まれていない数字です。
おかげで輸入額と輸出額が逆転してしまい、論旨がおかしなことになってます。

・14ページ
SCEウォッチャーの間では一躍有名(?)になった久夛良木健氏の「サーバーは衛星軌道がいいか」 発言ですが、本書の中ではPS2用サーバーの話であったと記されています。しかし引用元の『美学vs.実利』によれば、久夛良木氏は「PS3かPS4」 と述べています。

・46-47ページ
任天堂がファミコンを開発する際に、あたかもVCSやマックスマシーン、MSXの価格を参考にしたかのような説明がなされています。これは時系列的におかしい。任天堂がファミコンの開発に着手したのは81年頃。当然のことながら、上記のプラットフォームは日本ではまだ販売されていませんでした。

・83ページ
ファミコン版ゼビウスのROM容量は256Kビットであるとの説明があります。正確には、プログラムROM32KB+キャラクターROM8KB=合計40KB(320Kビット)です。
まあ、これは僕も過去に間違えたことがあるので、あまり人のことは言えないのですが(笑)

以上、長くなるのでとりあえず2章までの範囲で気になった部分を挙げてみました。
う~ん、あまりゲームに詳しくない方に校正をお願いしてしまったのでしょうか?『プレステ3はなぜ失敗したのか? 』に比べると遥かに情報量が多い内容であるとはいえ、いささか片手落ちな印象です。


■インベーダー基板とアタリ2600は同一コンセプト?

いちおう、アタリ2600(VCS)に一家言をもっている僕としては、どうしても突っ込まざるをえないのが第一章の結びとなる「インベーダーが“プラットフォーム”になった?」の項です。
まず34ページより、苦境に陥っていたアタリ2600がインベーダーの移植により息を吹き返したと説明する部分から。

 どん底にあったアタリ2600に手を焼いたブッシュネルは、当時の親会社だった映画会社のワーナー・コミュニケーションズに事業の縮小ないし中止を提案した。わが子の最期を看取ろうとした親に対して、ワーナーの経営陣は激怒して、一方的にクビを切ってしまった。ゲームというものを分かってない人たちが、アタリ2600というだめなハードを延命させてしまったのだ。(中略)
 しかし、インベーダーが“間に合って”しまった。
(中略)インベーダー人気がドーピングしたことで、全世界でシリーズ累計1500万台もの普及がかない、ハードと独立したソフトを作る人々や会社が自由に競争し、ゲーム市場を盛り上げるプラットフォームが出現したのである。

第一に、ワーナー・コミュニケーションズを「映画会社」と呼ぶのは不適切。
映画会社で有名なワーナー・ブラザーズは、組織的にはあくまでワーナー・コミュニケーションズの子会社です。正確には、「コングロマリット(複合企業体)」と表現されるべきでしょう。

次に、ブッシュネル氏がアタリ2600の事業中止を申し出たという部分について。
これは、おそらく『それは「ポン」から始まった』の記述を元にしていると思われます。しかし同書が参考文献として挙げている『The Ultimate History of Video Games』によると、当のブッシュネル氏は「事業中止ではなく、あくまで本体の普及を促すために値下げを提案した」と反論しています。つまり、『それポン』の記述は不正確なのです。
多根氏を責めるのは酷かもしれませんが、以上の理由から「ゲームというものを分かってない人たちが、アタリ2600というだめなハードを延命させてしまった」という説明には疑問符を付けさせて頂きます。

続いて多根氏は、日本でインベーダーブームが収束したことにより、大量の業務用基板の在庫が発生した問題を次のように説明しています。

 ここで、西角氏が設計したハードの構造が業界を救った。インベーダーの基板はプログラムの入ったROMを交換すれば、別のゲームを動かすことができるようになっていたのだ。熱いブームが過ぎ去るやいなや、様々なソフトを稼動させ、互いに競わせることができる何十万台ものプラットフォームが出現したのである。これはまさに、ROMカートリッジが交換できる家庭用ゲーム機とそっくり同じコンセプトだ。

そんなバカな。
確かに当時のタイトーは、インベーダー基板を流用した新ゲームを次々と市場に送り出していました。しかしそれらの基板の改修は、あくまでメーカー側で行われたものです。オペレーターやプレイヤーが自由にROMを交換していたわけではありません。
また多根氏自身、アタリ2600の特色は「ハードと独立したソフトを作る人々や会社が自由に競争し」ていた点だとさきほど述べたばかりです。これに対してインベーダー基板の消化は、あくまでタイトー(と一部の協力会社)によって行われました。状況が全く異なります。
アタリ2600と業務用基板を、「そっくり同じコンセプト」と表現するのはあまりに無理があると言わざるをえません。

さらに多根氏は、我が国の業務用ゲームとアメリカのアタリ2600を比較して、次のように結論付けます。

 つまり、アタリ2600が担った「ソフトのプラットフォーム」という役割を、日本ではインベーダーとギャラクシアン、つまりゲームセンターの業務用基板が果たしたわけだ。かたや、数年後のファミコンでさえ再現しきれなかったすごいグラフィック処理能力を持つ基板の上で、日銭が稼げなければ生きるか死ぬかのゲームセンターで仁義なき戦いを繰り広げていた国。かたや、どんなソフトでも出せば数万本は固い、しかも表現能力も低いので技術の差が出にくいぬるま湯にどっぷり浸かっていた国。さて、どちらがよりいいゲームができるだろう?

もはや、暴論以外の何者でもないですね。
業務用基板と家庭用機のアタリ2600を「ソフトのプラットフォーム」という強引な理屈で同列に扱っている時点で、前提となる条件が間違っています。
また、百歩譲ってアタリ2600の表現力が低いことを認めるとしても、アメリカのゲーム業界がぬるま湯に浸かっていたことの証拠にはなりません。
何故ならアメリカでも70年代から80年代初頭にかけて、アタリ、ウィリアムス、ミッドウェイ、スターン、エキシディ、シネマトロニクスなどといったメーカーより極めて技術力の高い、優れたアーケードゲームが生み出されているからです。そしてもちろん、ナムコのギャラクシアンやタイトーのスペースインベーダーも、アメリカで業務用にリリースされていたことは言うまでもありません。
多根氏の考察に何が欠けているかは明白でしょう。

記事冒頭に書いたように、僕はこの「日本を変えた10大ゲーム機」を読み物としては肯定的に評価します。しかし同時に、読者に対してattractiveな文章を書くことと、事実関係を正しく伝えることは峻別されるべきであるとも考えます。
もちろん、わずか280ページあまりで我々がビデオゲーム機と共に歩んできた30年の歴史をまとめることが困難であることは承知しているつもりです。その点を踏まえた上で、敢えて苦言を述べさせてもらいました。

一ゲームファンとして、多根清史氏の次なる著作に期待しております。
タグ:ゲーム
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M_t

どうも、こんにちは。
出版社がソフトバンク クリエイティブなんですね。
70年~80年代初頭にかけてのアメリカのアーケード事情はソフトバンクの孫正義氏のほうが詳しいのでは?と思ったりしました。

でも、おもしろそうなので、今、読んでる本 数冊が終わったら、買う予定です。
by M_t (2008-09-29 22:41) 

Aya

毎度の如くお疲れ様です。

>>わずか280ページあまりで我々がビデオゲーム機と共に歩んできた30年の歴史をまとめることが困難であることは承知しているつもりです。

この辺はやっぱり・・・個人出版じゃないと出来ないレベルの校訂が入りそうですね。
by Aya (2008-09-30 00:53) 

loderun

>M_tさん
おお、その発想はありませんでした。
ちょっと調べてみましたが、孫正義氏の自伝って無いみたいですしね。もしも孫氏の口から語られることがあれば、貴重な証言になりそうです。

>Ayaさん
えー、個人の手など借りなくとも、この程度のツッコミなら出版業界の方でなんとかして頂きたいですね(笑)
まあ実際のところ、レトロゲーム史って金にならないんだろうなぁとは思います。
by loderun (2008-10-02 19:01) 

M_t

今日、読破しましたが、ダメハードの比較対象物として、頻繁にMSXが登場しますね(苦笑)。
本書の中にMSXが1、2年の短命ハード的な記述は、どうかなと。(RX-78と同じ扱い)
でも、おっしゃるとおり、読物として、面白かったです。
by M_t (2008-10-22 19:28) 

loderun

まあ、80年代中盤に書かれたビジネス本でも、「主要家電メーカーが参入したMSXが、玩具のファミコンに負けた!」ってな感じで常に比較されてましたからねぇ。
子供の頃は全く気になりませんでしたが、それほどまでに当時の経済界が受けたインパクトは大きかったんですね。
by loderun (2008-10-23 11:31) 

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