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戦争と平和とゲーム (ATARI 『ミサイルコマンド』に寄せて) [レビュー]

もう20年以上も昔の話になるが、僕がATARIを初めて意識したきっかけはゲームそのものでなく、ある小説を読んだことからだった。それはVCSがアタリ2800と名前を変えて日本に再上陸した年 ― 1983年に公開された映画、『ウォーゲーム』のペーパーバック(ハヤカワ文庫)だ。

ウォー・ゲーム

ウォー・ゲーム

  • 出版社/メーカー: 20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
  • 発売日: 2005/02/18
  • メディア: DVD

― 時代は東西冷戦真っ只中。
ハッカーである主人公は偶然にもNORAD(北米大陸防空司令部)のコンピューターにアクセスしてしまう。これをきっかけに対ソビエトの演習プログラムが起動。コンピューターの人工知能は「演習」によるソ連軍の侵攻を「現実」と誤認し、報復措置を取ろうとする。
コンピューターを信じて疑わない司令部は、人工知能の立案に沿ってソビエトに対する報復準備を進めてしまう。果たして第三次世界大戦の危機を回避することはできるのか?…というのが『ウォーゲーム』のあらすじである。
さて、ここで何故ATARIが関係するのかというと、小説版では主人公は『ミサイルコマンド(ミサイル総司令部)』の達人だという描写があるのだ。

『ミサイルコマンド』はATARIが1980年にリリースしたアーケードゲームである。
トラックボールに3ボタンという(今日から見ると)少し変った操作系が特徴だ。しかし、自軍に降り注ぐ核ミサイルを打ち落とすというシンプルなルールと相まって、非常にスピーディーなプレイ感を実現している。今でも名作との呼び声高い、ATARI黄金期を代表する作品だ。

『ウォーゲーム』の中で、主人公は「ハッキングは只のゲームのつもりだったんだ!」と泣き叫ぶ。自分の好奇心がきっかけで全面核戦争の危機を引き起こしてしまうストーリーの伏線として、これほどピッタリとくるゲームは他にないだろう。
(もっとも、実際の映画では主人公は『ミサイルコマンド』をプレイするシーンはない。非常に残念に思ったのは僕だけではないはずだ。代わりに登場したビデオゲームが何だったかは皆さんの目で確かめて下さい)

しかし実際のところ、『ミサイルコマンド』がその無機質なゲーム画面の中で表現した「核の応酬」は、単なる空想ではなかった。むしろ、80年代において現実に「起こりうること」であったことは紛れも無い事実である。

そのことを最も端的に示すのが、奇しくも『ウォーゲーム』の公開と同年の1983年にアメリカのレーガン大統領(当時)が発表した「スターウォーズ計画」だ。
正式名称をSDI(戦略防衛構想 Strategic Defense Initiative)と呼ばれるこのプランは、宇宙空間の衛星からレーザーを発射し、ソ連のミサイルを打ち落とすという前代未聞の内容であった。
まさしく、『ミサイルコマンド』の世界を連想させるような話である。

結局SDIは完成を迎えることはなかった。元々が実現が極めて困難で荒唐無稽な発想だったのだ。しかし、SDIは現在の戦域ミサイル防衛システム(TMD)の基礎となった。かのパトリオットミサイルもSDI研究の賜物である。
さらに言えば、当時の米ソ間交渉では度々「SDIの凍結」がソ連側より訴えられていた。「核攻撃を無効化する計画」自体が結果的にブラフ(はったり)となり、米ソの軍事均衡を保つ役割の一端を担っていたのだ。
そういう意味ではSDIには意義があったと言える。

その後、ソビエト連邦は崩壊し東西冷戦は終焉を迎える。
米国とロシアの間では戦略核兵器削減条約(START)に基づく段階的な核の放棄が行われ、核兵器不拡散条約 (NPT)締約国も現在189ヶ国に及ぶ。世界は核軍縮の方向へ着実に進んでいる。
しかし、「核の脅威」がこの世から全て無くなった訳ではない。

『ミサイルコマンド』のライン&ペイントで描かれる核戦争にリアリティを感じた、かつてのプレイヤー達の「戦争と平和」に対する思い―それは“現在”でも変わらず、多くの人々の心に存在するものであると僕は信じるのだ。


(参考リンク)
『ミサイルコマンド』 (from KLOV)

WEBゲーム版 Missile Command (from Triplets and Us
ブラウザ上でプレイできるミサイルコマンドです(要Shockwave)。
どうでもいいがこのサイト、大量のライセンス付きゲームが置いてあるのだが大丈夫なんだろうか?(笑)


(補足)
■今回の記事は、「アタリミックス ハッピー10ゲームズ」ブログへの投稿に大幅に加筆・修正を加えたものです。
■今年で60年ですね。


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コメント 5

ペガサス・ペン

なっつかすぅうーー!
では、どうぞ。

─┼─┼─
×  ○
─┼─┼─
 
by ペガサス・ペン (2005-07-27 18:49) 

loderun

を、「Tic-Tac-Toe」(小説版では「三目並べ」)ですね。
『ウォーゲーム』は今見ても素晴らしい映画だと思います。DVD版は1000円でお釣りがくるとは、いい時代になったものです。久しぶりに観賞してみてはどうでしょうか?
ところで上の「Tic-Tac-Toe」の配置ですが、×が後手なら角を取らないと負けてしまいますよ(笑)
by loderun (2005-07-28 22:21) 

MiLD_GiNGER

ウォーゲームのDVDってそんなに安く買えるんですね。
ずいぶん昔に観た覚えがありますが、おもしろい映画だったと記憶しています。
そんなに安いんだったら買ってみてみようかな ^^
by MiLD_GiNGER (2005-07-28 23:52) 

ペガサス・ペン

最後のシーンでペンタゴンの指揮官みたいな人とちょっと仲良くなってますが
んな世の中うまくまとまらんだろうが!とツッコミを入れています。
侵入者と意気投合してんじゃねー!、と。
by ペガサス・ペン (2005-07-29 00:55) 

loderun

>>MiLD_GiNGERさん
amazonを見てもわかりますが、旧作のDVDは非常に安いですよ。
財布のことなど気にせずに、バカスカ買いましょう(笑)
関係ないですが、ゲーム少年が宇宙を救う『スターファイター』もDVD化してくれないかなぁ。

>>ペガサス・ペンさん
ああ、その辺りは小説版をおすすめします。フォルケン博士とマキットリックの確執とか、丁寧に描かれていますよ。
あと、記事には書きませんでしたが、実は小説版はオチにも『ミサイルコマンド』が登場します。amazonのマーケットプレイスで古本が注文可能です。是非とも!
by loderun (2005-07-29 10:11) 

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