「日本人、また宇宙へ」 ― ゲーマー的ニュースの裏話

今となっては懐かしい話だが、初めて宇宙へ行った日本人は1990年12月にソ連のソユーズに搭乗し、宇宙ステーション「ミール」に滞在したTBSの秋山豊寛さんだったのは周知の事実である。
TBSは莫大な「出張費」をソ連に支払って、彼を宇宙へと送り出したのだ。今も忘れないソユーズの打ち上げシーン。ロケットの胴体には番組スポンサーの広告が記されていた。

その後、91年にソビエト連邦は崩壊する。しかし、引き続きロシアは「宇宙飛行」を国家的なビジネスとして大いに推し進めることとなる。現実問題、政府の予算不足は深刻だったのだ。
2001年、史上初の民間人の「宇宙観光客」として米国の富豪、デニス・チトー氏が国際宇宙ステーションへと旅立った。南アフリカの実業家、マーク・シャトルワース氏がそれに続いた。

今この記事を読んでいるあなたは是非とも、米Space Adventures社の日本公式代理店であるNTTトラベルサービスのページを見て欲しい。20年前ならジョークにしか見えない内容だが、いまや宇宙は我々にとって手が届かない場所ではないのだ ― さしあたり、旅行費用の20億円さえ用意できるのなら。

という訳で、読売オンラインから飛び込んできたこのニュースをご紹介。

元ライブドア取締役、宇宙旅行へ…邦人初、代金２０億

ただ今世間をお騒がせの「ライブドア」の元関係者である点に目が行ってしまいそうだが、やはり問題は「20億円」である。宇宙旅行のためとは言え、普通の感覚なら「なんて豪気な人ね」といった程度では済まされない金額だ｡そもそも秋山さんのような企業活動ではなく、個人でそんな多額のお金を用意できるこの榎本大輔氏という人物は一体何者？などと疑問を持った人がほとんどだろう｡

榎本大輔氏はソフトウエア製作会社「プロジー」を設立、ライブドア取締役就任、その後退社して現在はIT企業への投資活動を行っているとのこと。なかなか華々しい経歴の持ち主だ｡この辺りは色々裏話もあるようだが、僕は寡聞にして知らない｡ただ、レトロゲームのトピックをメインとする当blogとしては、彼の過去について是非とも取り上げなければならない事柄がある｡
それはサイクロンという名の「マジコン」にまつわる話だ｡

マジコンとは「家庭用ゲームのROMデーターの吸い出し、ライティング機能を持つバックアップ機器の総称」である｡もう、この時点でアンダーグラウンドな臭いがプンプンする訳だが（笑）、詳しい事はネット検索でもして皆さんの目で確かめて欲しい｡
（参考）　はてなダイアリー ― マジコンとは ―
前回のエミュレーターについて書いた記事（「MAME.DK閉鎖」のニュースを切ってみる）に大きく関係する話だ｡ゲームファンなら知っていて損はしない筈である（かといって得をする訳でもないが）｡

さて問題となっている榎本氏だが、実は彼はかつてライダーユニットジャパンという名の会社を設立し、SFC用のマジコン「ファミリーパートナー」を香港から大量に輸入、当時としては極めて安価に販売していた過去があるそうだ｡ファミリーパートナー自体の性能が高かったこともあり非常に好評を博したようである｡「その筋」では有名な話だ。

この成功を受けて、彼はSFC用マジコンとしては唯一の国産機となる「サイクロン」の開発を発表する｡しかし、これが非常に問題が多い商品であったのだ｡
このFDドライブ一体型のマジコンは、吸い出し能力が他と比べて劣っていた上に、肝心の吸い出しを行うには「OSが書き込まれた特殊フォーマットの専用フロッピーディスクが必要」という機能的に不自由な設計であった｡加えて、リリース以前に盛んに宣伝された「SCSI接続が可能」、「モデムユニットを使用可能」といった追加機能が予告だけで結局実装されなかったこと｡さらに、予想以上に注文が舞い込んだことから発売までの時間が大幅に長引き、納期が遅れたという｡以上のことから一部のユ－ザーの間では「史上最低のマジコン」との不名誉な称号を得ることとなる｡

さて、サイクロンには極めつけのエピソードがある｡なんと、本体のケースには製作者である榎本大輔氏の名前が刻まれているのだ｡理由も奮っていて、曰く「アップルみたいでかっこいいから」｡

サブカル系ニュースサイトの中でも異様なほどの濃縮度を誇ることで知られる（←褒めています）、さらしるさんのTentative Name.では、問題のサイクロンの写真が掲載されている｡
吸い出し機などという、イリーガルすれすれな商品にサインを刻むというのはなかなか出来ることではない｡

という訳で強引に結論付けると、マジコン製造販売に手を出した上に自分の名前を刻むような「奇人」だからこそ、IT業界で築いた一財産の20億円を宇宙旅行のためにポンと出せるんだろうな、と妙に納得した次第です｡


追伸：前回に引き続きアレなネタを取り上げてしまいました｡是非とも次の記事は、健全な内容に軌道修正したいと思います（苦笑）

（参考）
○Dice-K日記
榎本大輔氏ご本人のblog｡やはり変わった方のようである｡

○榎本さんの話
（from 昔は裏ニュース！だった｡）
本稿を書くにあたり、著書やネット記事を参考にさせて頂いた吉野健太郎氏（「連邦」管理人）のblogより｡榎本氏のニュースにちなんで自身の体験談を述べられているが、「サイクロンを持っているユーザーへ凄いプレゼントをしたい」とは一体…（笑）｡

コメント 2

マジコン、久しぶりに聞く名前です。
自分で買ったことも触ったことも無いですが、うわさは聞いたことがあります。

「マジコン作って宇宙旅行」って夢の有るような無いような話ですねｗ
（それだけで行ける訳はないですが＾＾；）
by MiLD_GiNGER (2005-03-15 16:29) 

カートリッジ供給されているGBAでは、どっこい今でも中国あたりで吸出し機が製造されてます。ただし、深刻度からいえばCDやDVDなどの光学メディアの方が重大です。なにしろ、PCがあれば容易に複製できる訳ですから。
あと記事で取り上げた榎本氏ですが、マジコンの儲けは全て散財されたとのこと。実は、彼が設立したプロジーという会社もCDバックアップツールを主力商品としていたりと、まぁなんというか「コピー」と縁のある方なんですね（苦笑）
by loderun (2005-03-15 23:04)