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アタリVCS『E.T.』の埋葬は無かったんだ論 [レビュー]

国内ではアタリ・ショックとして知られる1980年代初頭のAtariに関する凋落ですが、この事件を象徴する都市伝説として知られるAtari 2600版「E.T.」のカートリッジ埋め立てに関する真偽が発掘調査を伴うドキュメンタリー作品として検証されることが明らかになりました。
数百万本が埋められたとされるAtari 2600版「E.T.」の都市伝説を発掘調査するドキュメンタリーの制作が決定 (doope!)

(関連記事)
米アタリ社「ビデオゲームの墓場」の真実は…埋立地の発掘捜査に許可(AP)  (エキサイトニュース)
A film company poised to search for 'worst video game ever' in Alamogordo (Alamogordo Daily News)*1



アタリショック考察を行なっている当blogとしては無視できない海外ニュースが飛び込んできました。
カナダの映画製作会社が『E.T.』の埋葬地として知られるニューメキシコ州アラモゴードの処分場の掘り起こし許可を取得し、その調査の模様をドキュメンタリー作品化するとのことです。

我が国では1983年にアタリ2800の名で発売されるもほとんど普及しなかったVCS(アタリ2600)ですが、市場最悪のクソゲーとして名高い『E.T.』の埋葬伝説についてはご存知の方も多いでしょう。

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Atari 2600 - E.T. The Extra-Terrestrial (Atari) (AtariAge)

1982年、アタリ社は年末商戦の目玉として映画『E.T.』に基づいたVCS対応の新作ソフトを発売。巨額のライセンス料と過大な販売予想に基づき500万本ものカートリッジを製造するも、市場が過当競争状態となっていたことに加えて、ゲーム自体の出来が悪かったために売上は伸びず、大量の不良在庫が生じた。
結局、『E.T.』の販売本数は150万本程度に留まり、売れ残った350万本のゲームソフトは83年9月にニューメキシコ州アラモゴードの処分場に埋め立てられた。*2

―――現在、世間一般で流布している伝説とはこのようなものではないかと思います。

確かに、1983年9月22日木曜日から翌週にかけて、テキサス州のアタリ社エルパソ工場より運び出された大量のビデオゲーム製品が、ニューメキシコ州アラモゴードの処分場に埋め立てられたことは事実です。
これは当時の新聞でも報じられており、疑う余地はありません。
しかし、“数百万本もの『E.T.』が埋められた”などという具体的な話になると事情は異なります。現在、アメリカのVCSフリークの間では、この伝説に対して懐疑的な見方が主流です。

そもそもの話として、アラモゴードに埋葬されたビデオゲーム製品が大量の『E.T.』であったことを示す直接的な証拠は存在しません。
例えば、本件の第一報を行った地元新聞紙のアラモゴード・デイリー・ニュースは、廃棄製品の内訳を“ゲームカートリッジ、ゲーム機本体、コンピュータ”と表現しているのみで、具体的なタイトル名は挙がっていません。
また、当時のアタリの広報担当者は、廃棄製品の大部分がゲームカートリッジであったことは認めたものの、それらは動作不良品やユーザーから返品された製品であると回答しています。

この謎を解く鍵は、廃棄製品がエルパソ工場(しばしば“倉庫”と表現されますがこれは不適切)より運び出された点に注目すべきです。

元々、エルパソ工場は家庭用ビデオゲーム製品およびホームコンピュータ製品―――とりわけゲームカートリッジの製造を担っていました。しかし82年末以降、アタリ社は急激に収益が悪化。そのため、経営合理化の一環としてこれらの業務を香港工場と台湾工場に集約し、エルパソは修理工場へ転換することを決定します*3。現に、アラモゴードへ製品廃棄が行われる直前の1983年9月15日に、エルパソ工場の従業人650人のうち380人がレイオフされています。

通常、製造工場に完成品在庫を長期間に渡って保管することはありません。仮に350万本の『E.T.』が売れ残っていたとしても、それは全米各地の倉庫に既に引き渡されていたと考えるのが自然です。即ち、アラモゴードに廃棄されたのは、業務転換により不要となった在庫資材や半完成品が大部分であった可能性が極めて高いと言えるでしょう。

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アタリにとって不幸であったのは、当時既に『E.T.』が商業的に大失敗したと広く知れ渡っていたことです。
83年9月27日付けのアラモゴード・デイリー・ニュースは、州を越えて大量の産業廃棄物が持ち込まれたことに対して市当局が抗議を行ったと報じられていますが、廃棄製品を指して“E.T. trash(E.T.ゴミ)”と表現されています。
「不良在庫と化したゲームソフト」と「埋め立てられた廃棄製品」という二つの事実が安易に結び付けられてしまった結果、アラモゴードの伝説は生まれたのです。

では、『E.T.』をはじめとする大量のゲームソフトのメーカー在庫はどのように処分されたのでしょうか?
実は2012年11月に出版された『Atari Inc.』に、興味深い記述があります。同書はアタリの元従業員へのインタビューを基に編纂されていますが、この件に関して“証言者との約束により詳しい場所は明かせない”と断りを入れた上で、不良在庫と化したゲームソフトの廃棄処分はカリフォルニア州サニーベールで行われたと述べています。これは、『The Ultimate History of Video Games』(2001年)でも同様の見解が示されていることから、非常に信憑性が高いと言えます。

最後に蛇足ながら、初めて耳にした人は例外なく驚くであろう衝撃の事実をひとつ。
実は『E.T.』は、1986年にアタリ社(Atari Corp.)がアタリ2600をリバイバルした際に再販されています
残念ながらカートリッジの実物を確認するまでには至っていませんが、製造が台湾で行われていることから、82年分のROMを流用したのではなく全くの新造品であると思われます。


(脚注)
*1 ここにリンクを挙げたニュース記事の間で処分場に乗り入れたトラックの台数が定まっていないのは、単に出典が異なることが理由。例えば、doope!はトラックの台数を14台としているが、これは83年9月28日付のニューヨーク・タイムズの記述に基づいている。ただし、最終的に何台のトラックが乗り入れたのか正確な数は不明。
*2 この文章は特定文献からの引用ではなく、一般的に流布しているE.T.埋葬伝説を筆者がまとめたもの。
*3 しかし実際にはエルパソは修理工場とはならず、オートメーション化されたゲーム機本体およびコンピュータの製造工場に転換された。

(Amazonリンク)
Atari Inc.

Atari Inc.

  • 作者: Curt Vendel
  • 出版社/メーカー: Syzygy Press
  • 発売日: 2012/11/25
  • メディア: ペーパーバック

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