偏愛ゲーマー的書評 『ニンテンドー・イン・アメリカ』 [レビュー]
2011年12月に発行された本をいまさらご紹介。著者のジェフ・ライアン氏は主にWEBメディアで活動しているゲームジャーナリスト。
今年の頭にかけて、一時amazonでは品切れになっていましたが、現在は在庫が復活しているようです。
原題は『スーパーマリオ いかにして任天堂はアメリカを征服したか』*1。
書名が示すように、ビデオゲーム史上最も有名なゲームキャラとなったマリオの活躍を主軸としながら、1980年代にアメリカへ進出した任天堂が世界的企業へと成長を遂げていく過程が描かれています。
とりわけ、設立当初の米国任天堂を大きく取り扱っている日本の書籍は、今まで『ゲーム・オーバー』(93年)か『新・電子立国』(97年)ぐらいしかありません。本書は、我が国では馴染みが薄い「ファミコン前後」のアメリカの家庭用ビデオゲーム普及史を、最新の知見にアップデートした内容と言えます。
ただし残念なことに本書は、日本サイドの記述に頼りない部分が目に付きます。例えば、ファミコンの『F1レース』にマリオが登場していたかのような表現や、中裕司氏が携わった初の作品を『ファンタシースター』と述べているなど*2。“セガの3番目のゲーム機はセガ・マークII”という、ちょっと信じられないミスもあります。もっとも、これは翻訳の際の誤植なのかもしれません。
(翻訳の問題と言えば、本書の中で谷山浩子「GO GO マリオ!!」の歌詞が日→英→日と訳されてしまっているのは残念。なぜ原詞を引用しなかったのか?)
また、本書後半にあたる2000年以降の話題に関しては、アメリカ限定というよりも世界市場の流れを汲んだ記述となっており、書名はいささかミスリードの感があります。
とはいえ、海外視点の任天堂考察本として良くまとまっているなというのが率直な感想です。
未読の方は、秋の夜長のお供に是非ともおすすめいたします。
○Bonus chapters (DLC) (Super Mario Book by Jeff Ryan)
さて、ここから余談。
本書の公式WEBサイトには追加コンテンツとして、マリオの名前の由来となった人物であるマリオ・セガール(Mario Segale)*3に関する考察が披露されています。
そして僕は、このマリオ・セガールに苦い思い出があります。
実は今から4年前、IGNデータベースに掲載されたマリオ・セガールのニセ写真を、本物の写真と誤解してblogで大きく紹介してしまったことがあるのです。
○世界で最も有名なゲームキャラの名前の元ネタになった人物
このニセ写真の仕掛け人は、IGN副社長のピア・シュナイダー氏。日本では「外人4コマのリーダー」と言えばわかりやすいかもしれません。ゲームメディアのEGM Magazineまでもが釣られてしまい、当時ちょっとした話題になりました。
シュナイダー氏はニセ写真を掲載したことについて、次のような見解を述べています。
“私はマリオ・セガールの存在を信じない。また、任天堂もマリオの名は実在の人物を基にしているとは決して認めないだろう。ニセ写真を公開したのは、ネス湖の怪物のようにこの写真が拡散して、最終的にテレビ番組で取り上げられることを期待したからだ。そして私は死の間際に「実はあの写真は…」と告白するのだ。EGMが取り上げてしまったことは少々残念だね”*4
ネス湖の怪物の例えは、おそらく「外科医の写真」の逸話を意識してのものでしょう。
それはさておきシュナイダー氏はご存じなかったようですが、任天堂はマリオの名前の由来について“NOAの倉庫係のオジサンそっくりだった”からであると認めています。そして現在では、アメリカのビデオゲーム史研究家によってマリオ・セガールの実在を示す証拠がいくつも発掘されています。
つまり、シュナイダー氏の発想は、根本的に間違っていたわけです。
とはいえ、僕がうかつにもニセ写真を信じてしまったことには変わりがありません。「確証無くネタに飛びついちゃダメだよね」という戒めをこめて、ちょっと思い出話を書いてみました。
(脚注)
*1 『SUPER MARIO How Nintendo Conquered America』
*2 正しくはセガSG/SC対応ソフトの『ガールズガーデン』
*3 デヴィッド・シェフ『ゲーム・オーバー』の記述から、長らくマリオ・セガリ(Mario Segali)と誤解されていたが、現在ではマリオ・セガールが正しい名前であることが明らかになっている。
*4 Mario Segali: Never Photographedのコメント欄より。ちなみに“EGMが取り上げて残念”とは、早々とニセ写真であることが露見してしまったことが“残念”という意味。
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