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インテリビジョン ― アタリショックを生き延びた長命ハード [レビュー]

『TGS2008スペシャル』 任天堂「ファミコン」はこうして生まれた

blogで取り上げるのが遅くなりましたが、日経トレンディネットにて“任天堂「ファミコン」はこうして生まれた”という特設ページが公開されています。
元々は、94~95年に日経エレクトロニクスで連載された記事だそうですが、任天堂関係者の証言のみならず製品写真や貴重な回路図も見ることができ、極めて資料性に富んだ内容です。
個人的には、ファミコンの命名者が上村雅之氏の奥さんであったことに驚きましたね(笑)

ただし一つだけ気になった箇所があります。
それは、コレコ社のコレコビジョンが“ファミコンのひな形”になったと説明されている点です。これはあくまで、リコーの6502CPUを搭載することが決定された82年の時点での状況を指しているのではないでしょうか?
実際に開発二部が、任天堂独自の家庭用ゲーム機の開発に着手するのは遅くとも1981年後半のことです。そして開発二部の責任者であった上村氏は当時を振り返り、あるゲームハードを意識していたことを認めています。

 上村たちの前にはマテル社の『インテレビジョン』など、さまざまなサンプルが置かれていた。開発二部にしてみれば、社内的にも何か目立ったことをやりたいという気運に盛り上がっていたのである。(中略)
 「条件は絞られていましたね。それまでの失敗から考えて、このままでは仕方がないだろうという思いがひとつ。ふたつめに今売っているものは面白くないという気持ち。ただし、『インテレビジョン』だけはなかなかよく出来ていたんですね」
出典:「任天堂の秘密」 上乃郷利昭 現代出版(86年)





intellivision.jpg
Intellivision (from 英語版Wikipedia)

■インテリビジョン*1 (日本名 インテレビジョン*2
メーカー:マテル
発売年:1980年*3
価格:299ドル
同梱ソフト:「ラスベガス ポーカー&ブラックジャック」


インテリビジョンは、アメリカの玩具メーカーであるマテル社が1980年に発売した家庭用ゲーム機です。
CPUにゼネラル・インスツルメンツ社のCP1610(0.9MHz)を搭載。家庭用機に16-bit CPUが採用されたのは、このインテリビジョンが初めてです。
また、グラフィック能力は解像度160×96、16色表示、スプライト8枚。これは82年にコレコビジョンが登場するまで、他社の家庭用ゲーム機と比べて一歩抜きん出た表現力を誇りました。
上村氏がインテリビジョンに感銘を受けたのも当然と言えます。


intellivision_tvcm1.jpg
Intellivision[レジスタードトレードマーク] TV Commercial: Plimpton Sports (from YouTube)
著述家、スポーツキャスターのジョージ・プリンプトン氏を起用した、アタリVCSとの比較コマーシャル・フィルム。*4
これは、家庭用ゲーム史上初の比較CMキャンペーンでした。


intellivision_tvcm2.jpg
Intellivision[レジスタードトレードマーク] TV Commercial: PlayCable Comparison (from YouTube)
驚くべきことに、インテリビジョンにはケーブルTV回線を利用したダウンロードサービスが存在しました。もちろん、これも家庭用ゲーム機で初めての試みです。

アメリカの家庭用ゲーム市場を支配していたアタリ社に真っ向から立ち向かったインテリビジョン。
しかし、ハードの普及を後押しするキラーソフトに恵まれなかったこと、82年にアタリ5200やコレコビジョンが登場し性能的なアドバンテージが失われたこと、リリースを予告していたホームコンピュータ拡張モジュールの開発に失敗したことなどが重なり、急速に市場での存在感を失うことになります。
結局、Video Game Crash(いわゆるアタリショック)のあおりをうけて、84年にマテル社はエレクトロニクス部門を売却。家庭用ゲーム市場から撤退しています。

ですが、インテリビジョンはまだ死んではいませんでした。
インテリビジョンの権利は、エレクトロニクス部門のスタッフが中心となって新たに設立されたIntellivision Inc.(後にINTV Corp.に改名)に引き継がれました。当初は売れ残った在庫を処分していましたが、後に新モデルの本体や新作ソフトも供給されています。(これらの製品は、主にメールオーダーという形で販売されました)

結果として、INTV Corp.は91年まで業務を継続します。アメリカでのNES(ファミコン)の発売が85年、Genesis(メガドライブ)の発売が89年と言えば、いかに彼らがインテリビジョンを見捨てなかったかが理解できるかと思います。*5 最終的に、インテリビジョン本体の総出荷台数は300万台を数えたそうです。
もちろん、84年以降の状況に関しては“市場規模”と呼べるほどの大きな売上は無かったかもしれません。けれどもインテリビジョンが、10年以上に渡ってサポートを継続された長命ハードとなったことは、紛れも無い事実です。

日本では82年にバンダイを通じて販売されたものの、わずか一年で市場から消えたインテリビジョン。しかし上村氏の発言も含めて、その歴史の裏には意外な事実を数多く見出すことができるのです。


【 脚注 】
*1 インテリビジョンとは、"Intelligent Television"を縮めた造語。
*2 日本では1982年にバンダイより発売。その際に「インテレビジョン」という名称が使用された。
*3 正確には、1979年にカリフォルニア州フレズノで試験販売が行われている。
*4 余談だが、「HIGH SCORE!: the illustrated history of electronic games」によれば、プリンプトン氏は“今迄で最もビデオゲームに似つかわしくない宣伝担当者”と評されている(笑) 
ともあれ、マテル社がインテリビジョンのCMに知識人を起用した理由は、富裕層へのアピールを狙ったものだと思われる。
*5 INTVが最後に新作ソフトをリリースしたのは89年であった。


(関連記事)
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コメント 6

M_t

あくまで、個人的な考え方ですが、マテル時代のインテリビジョンは理想と現実の間で、もがき苦しんだ様に感じました。
CATVのPlaycableも発想が新しいんだけど、メモリの少なさゆえ、遊べるゲームが限定されたり、64K RAMのホームコンピューター化構想もコストの問題で、屈してしまったりと・・・
着眼点というか、当時として考えられる技術をゲーム機に注ごうとする姿勢はいいですよね。
枯れた技術の水平思考も良いですが、マテル社のインテリビジョン的な発想は、個人的には大好きです。
ただし、ビジネスとして考えるには経営者ではないので、どちらが良いのかよくわかりません。(笑)
by M_t (2008-10-16 11:27) 

loderun

>ホームコンピューター化構想
あ、鋭いです(笑)
上の記事では、拡張モジュールを「開発に失敗した」と表現しましたが、実際には試験販売までこぎつけていました。M_tさんが書かれたように、正確には価格面で折り合いがつかなかったのです。

んで、「当時として考えられる技術を注ぐ」という部分ですが、それはインテリビジョンに限った話ではなくファミコンも同様だったと思います。
6502自体は傑出したCPUではなかったものの、全体として見ると高いレベルでゲームに特化した異形のハードでした。

そういうわけで、任天堂製品で「枯れた技術の水平思考」が見受けられのは、例えばゲーム&ウォッチやゲームボーイ、バーチャルボーイあたりではないでしょうか?
実は据置機に関しては、ファミコンからPS2に至るまで「スペック至上主義」が追求され続けて来たのです。(それを崩したのがWiiとなるわけですが)
by loderun (2008-10-16 20:28) 

M_t

ご指摘、修正ありがとうございます。
最近、横井軍平氏のゲーム&ウォッチこそ、日本のゲーム市場を拡大したようなことが、書かれてある文章を見た後だったので、不本意に変なことを口走ってしまいました。(苦笑)
やはり、ちゃんとした歴史を勉強した上で、読む文章も見極めていかないとだめですね。
今、長期休暇中なので、本読んで勉強してます。(笑)
by M_t (2008-10-16 21:54) 

loderun

いや、僕の方も誤読していましたが、M_tさんはハード本体だけでなく周辺機器やダウンロードサービスも含めて「当時として考えられる技術」と書かれてましたね。
そういう意味ではファミコンなんか、ディスクシステムにQDを採用したり、ファミリーベーシックのメモリはわずか2KBだったり、(日経の記事にあるように)通信アダプタを利用したゲームの発売を断念したりと、安易な高性能化や高コスト化には慎重だった側面もあります。

特に80年代当時はぴゅう太やSC-3000、そしてご存知MSXのように「低価格なホビーコンピュータ」に対して一定の需要が存在しました。しかし任天堂が、その路線に敢えて深入りしなかったのは賢明だったなぁと思います。

・・・あ、念のため断っておきますが、MSXユーザーであったことを後悔しているわけではありませんよ!(笑)
by loderun (2008-10-17 16:12) 

Mo

はじめまして、アタリ2800とMSXを持っていた者です。アタリのソフトはアステロイドとスウォードクエスト 火の世界の2本のみでしたけど。
中国で『電子遊戯軟件』という雑誌を買ったところ、下記のような記事がありました。
http://i-get.jp/upload500/src/up17112.jpg
雑誌には「名越武芸帖」「小島の視点」というコラムもあって日本の雑誌のパクリ記事の可能性もありますが、これ、ブログ主さんは見たことがありますでしょうか?

by Mo (2008-10-20 17:04) 

loderun

はじめまして。電子遊戯軟件は初めて知りました。
中国語を読めないので断言はできませんが、そのオデッセイの記事はファミ通で連載されているRoad to Famicomと酷似しているように思えます。
ただ、日本の雑誌と提携している可能性もありますね。その辺りの事情は、電子遊戯軟件に書いてありませんでしたか?
by loderun (2008-10-23 11:19) 

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