14年前の宮本茂が語った、「夢」と「ビジョン」の違い [レビュー]
―インタビュアーより、“「マルチメディア」という用語をどう考えるか”と問われて
宮本 : 私にとってマルチメディアは、ハード的に考えて、単に大容量でアクセスの遅いROMを使うものということですね。それをある人はコンピュータと言い、我々はゲーム機と呼んでいるわけです。重要なのは、むしろそのハードを何百ドルかの値段でお客さんに買ってもらうためには、どんなソフトが必要なのかという部分ではないですか。例えば「スーパーマリオVI」が、700ドルのハードのソフトとして売る自信があるとすれば、我々はそのハードに乗っかればいいはずなんです。マルチメディアが怪しいのは、その何百ドルだかのハードを確実に売るためのソフトを作る、と誰も言っていない点ではないでしょうか。(中略)
マルチメディアは、今のところハードに関しては「こういうスペックのものを作ります。何ドルで売ります」という確実なビジョンがある。しかし、そこから先は「夢」でしかないように思います。夢とビジョンは違うんですよ。ウォルト・ディズニーがフロリダの沼地を見て「ここにシンデレラ城を建てる。」と言ったときに、周りの人はおそらく「夢を語っている」と思ったでしょう。しかし彼にとっては夢ではなく、きちんと建設費まで算盤はじいた上での「ビジョン」だったはずです。マルチメディアの「夢」を語る人の多くは、これだけのハードがあるから、誰かがそのハードの値段に見合ったソフトを作ってくれるだろうという「夢」を見ているような気がします。(中略)
ウチがファミコンで成功したことを認めていただいて、じゃあ任天堂マジックとは何だったのかが語られるときに、結局ロイヤリティを取る方法だったんだ、という部分だけがクローズアップされがちです。しかし、我々は『ベースボール』(任天堂が83年12月に発売したソフト)が遊べるから任天堂のファミコンを買ってください、といって商売を始めたんですね。ファミコン発売当時の3800円のカートリッジに対して、本来非常に高いハードであった本体を15000円程度で売ったことの意味が、マルチメディアにおいても、もう一度問われるべきではないでしょうか。
■出典 「電視遊戯時代 テレビゲームの現在」 テレビゲーム・ミュージアム・プロジェクト(94年)
以上、今から14年前に出版された「電視遊戯時代」に収められている、宮本茂の発言を引用させていただきました。
なぜ急に僕がこんな昔の文章を紹介したのかというと、その理由は5月25日のニューヨーク・タイムス(NYT.com)に掲載された宮本氏のインタビューを読んだからです。
○任天堂に対抗するだって?w 無駄な抵抗はやめておけ ~最強の55歳~ (from はてな匿名ダイアリー)
○Shigeru Miyamoto of Nintendo Expands His Empire (原文)
NYT.comのインタビューの中で、宮本氏は自身の功績を「ディズニーにはとても及ばない」と述べています。しかし、「電視遊戯時代」の発言を見ての通り、宮本氏はシンデレラ城のエピソードになぞらえて、任天堂がいかにしてファミコンで成功したのかを説明しています。
宮本氏はディズニーと同様に、「夢」と「ビジョン」という理想の違いを知る人物であったわけです。
「マルチメディアにはビジョンが無い」との宮本氏の指摘は、あまりにも的確でした。
事実、90年代に市場投入されたマルチメディアゲーム機(敢えて具体名は挙げません)がどのような結末を迎えたかを、我々はよく知っています。
そして時は流れ、2008年の現在。
ほんの数年前の予想を裏切り、次世代DVDを搭載したハイスペックゲーム機が、性能的に劣るはずの携帯ゲーム機やWiiの後塵を拝しているという“異常事態”が起こっています。
「夢とビジョンは違う」―――宮本氏が14年も前に発した言葉を、現代に住む我々は改めて見直すべきではないでしょうか?少なくとも僕は、そのように痛感しているのです。
(関連記事)
○「自分は天才ではなく普通の人間」と答えた、20年前の宮本茂
○『スーパーマリオブラザーズ』は何に勝ったのか?
宮本 : 私にとってマルチメディアは、ハード的に考えて、単に大容量でアクセスの遅いROMを使うものということですね。それをある人はコンピュータと言い、我々はゲーム機と呼んでいるわけです。重要なのは、むしろそのハードを何百ドルかの値段でお客さんに買ってもらうためには、どんなソフトが必要なのかという部分ではないですか。例えば「スーパーマリオVI」が、700ドルのハードのソフトとして売る自信があるとすれば、我々はそのハードに乗っかればいいはずなんです。マルチメディアが怪しいのは、その何百ドルだかのハードを確実に売るためのソフトを作る、と誰も言っていない点ではないでしょうか。(中略)
マルチメディアは、今のところハードに関しては「こういうスペックのものを作ります。何ドルで売ります」という確実なビジョンがある。しかし、そこから先は「夢」でしかないように思います。夢とビジョンは違うんですよ。ウォルト・ディズニーがフロリダの沼地を見て「ここにシンデレラ城を建てる。」と言ったときに、周りの人はおそらく「夢を語っている」と思ったでしょう。しかし彼にとっては夢ではなく、きちんと建設費まで算盤はじいた上での「ビジョン」だったはずです。マルチメディアの「夢」を語る人の多くは、これだけのハードがあるから、誰かがそのハードの値段に見合ったソフトを作ってくれるだろうという「夢」を見ているような気がします。(中略)
ウチがファミコンで成功したことを認めていただいて、じゃあ任天堂マジックとは何だったのかが語られるときに、結局ロイヤリティを取る方法だったんだ、という部分だけがクローズアップされがちです。しかし、我々は『ベースボール』(任天堂が83年12月に発売したソフト)が遊べるから任天堂のファミコンを買ってください、といって商売を始めたんですね。ファミコン発売当時の3800円のカートリッジに対して、本来非常に高いハードであった本体を15000円程度で売ったことの意味が、マルチメディアにおいても、もう一度問われるべきではないでしょうか。
■出典 「電視遊戯時代 テレビゲームの現在」 テレビゲーム・ミュージアム・プロジェクト(94年)
以上、今から14年前に出版された「電視遊戯時代」に収められている、宮本茂の発言を引用させていただきました。
なぜ急に僕がこんな昔の文章を紹介したのかというと、その理由は5月25日のニューヨーク・タイムス(NYT.com)に掲載された宮本氏のインタビューを読んだからです。
○任天堂に対抗するだって?w 無駄な抵抗はやめておけ ~最強の55歳~ (from はてな匿名ダイアリー)
○Shigeru Miyamoto of Nintendo Expands His Empire (原文)
NYT.comのインタビューの中で、宮本氏は自身の功績を「ディズニーにはとても及ばない」と述べています。しかし、「電視遊戯時代」の発言を見ての通り、宮本氏はシンデレラ城のエピソードになぞらえて、任天堂がいかにしてファミコンで成功したのかを説明しています。
宮本氏はディズニーと同様に、「夢」と「ビジョン」という理想の違いを知る人物であったわけです。
「マルチメディアにはビジョンが無い」との宮本氏の指摘は、あまりにも的確でした。
事実、90年代に市場投入されたマルチメディアゲーム機(敢えて具体名は挙げません)がどのような結末を迎えたかを、我々はよく知っています。
そして時は流れ、2008年の現在。
ほんの数年前の予想を裏切り、次世代DVDを搭載したハイスペックゲーム機が、性能的に劣るはずの携帯ゲーム機やWiiの後塵を拝しているという“異常事態”が起こっています。
「夢とビジョンは違う」―――宮本氏が14年も前に発した言葉を、現代に住む我々は改めて見直すべきではないでしょうか?少なくとも僕は、そのように痛感しているのです。
(関連記事)
○「自分は天才ではなく普通の人間」と答えた、20年前の宮本茂
○『スーパーマリオブラザーズ』は何に勝ったのか?
タグ:ゲーム
夢とビジョンは違うとは深い言葉ですね。
by peace68 (2011-06-20 01:59)