「ファミコン用チップ300万個保証」はフィクションだった? [日記・雑感]
上村*注は回路図の素案をもって大手電機メーカーの一つ、リコーを訪れた。必要とするチップの納入価格は2,000円を超えるものであってはならないと、上村は告げた。そのために機能も必要欠くべからざるものだけに限定したのだ、と。当時、半導体事業の不振に喘いでいたリコーは、任天堂の申し出に乗り気になったが、2,000円という価格には難色を示した。
リコーの反応を知った山内は、こう提言した。
「二年間で300万個の発注を保証してやれ。そうすれば必ずこっちの言い値を呑むから」
デヴィッド・シェフ著『ゲーム・オーバー』より。
本体価格14,800円と、83年当時の家庭用ゲーム機としては驚異的な低価格を実現したファミリーコンピュータ。
その開発秘話として必ずと言ってよいほど言及されるのが、上に挙げた「任天堂はリコーに、二年間で300万個のカスタムチップの発注を保証した」です。
Wikipediaの「ファミリーコンピュータ」の項にも紹介されているほど有名なエピソードであり、僕自身も過去のエントリーで取りあげたことがあります。
しかし任天堂雑学さんによれば、任天堂の山内社長(当時)はこの話をきっぱりと否定されているそうです。
三百万台保証だなんて、そんな発注はしていませんよ。雑誌などにはいろいろ書いてあるようだけど、私はリコーさんに、三百万台発注する、なんて言ってません。あれは虚構の産物ですよ。実際には、どうですか、これ(二千円)でやってみてください、といったのに対して、じゃあ、やりましょう、という話だった。三百万台という話はありませんでした。
山内氏が対外的にこのように発言されている以上、「チップ300万個保証」の逸話は誤りであったと結論付けざるをえません。
早速僕も、過去のエントリーを訂正させていただきました。
うん、人生は学ぶことばかりだね。
(07/7/20) 追記
ただし、88年に発行された『電視遊戯大全』によれば、リコーは任天堂に対し「100万台以上の生産を前提とするならば、実現できる。それ以下ならば不可能。」 と回答したとの記述がある。
いずれにしても、任天堂とリコーとの間に結ばれたカスタムチップに関する契約は、(300万個という数字は虚構であったにせよ)当時としては異例な内容であったことは間違いないのだろう。
*注 ファミコンの開発責任者であった上村雅之氏のこと。
宮本さんにも有りもしない伝説がありますよね。
任天関係者は美談が多いなぁ。
by おーしゃん (2007-07-20 02:03)
nice!ありがとうございます。
そうですねー、僕自身も反省しているのですが、任天堂関係の逸話は典拠不明のものが色々ありそうです。無用の混乱を後世に残さないためにも、今のうちに検証しておくべきなんでしょうね。
by loderun (2007-07-20 19:43)
リコーが半導体事業の不振にあえいでいたのは、嘘、その当時、半導体工場の立ち上げを行っていたのが真相です。その工場に投入する半導体の有力候補がファミコンで、工場を建てる前から、設計・開発を行っていた。
by 京増 幹雄 (2012-08-19 07:26)